ところが、専有部は?
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例えば高級マンションなどでは、100戸を超える大型億ションと20戸を下回るようなものとでは、後者の方が工夫の効いたものの場合が少なくない。すべての住戸のインフィルをフルオーダーで対応するような高級物件の例を見ても、小ぶりな物件であることが大半。逆にいえば、少ないからこそできるサービスなのであるが。
これは大規模有利な市場になればなる程、小中規模の物件においては、何とか専有部で差別化を図ろうとする傾向のあることを物語っている。スケールが小さいからこそ、希少な建材や設備の採用、設計者が一邸に注ぐことのできる時間などが確保でき、秀逸な居住空間が出来やすいのである。
考えられる理由は何か?
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たいていリフォームなどは数年住んだあとで行う。新築をいきなり改装する購入者もいないわけではないだろうが、そんな特異なケースを基準に作られているわけではまさかあるまい。
大規模マンションの作り手は、プランを進める過程で、どうしてもその最たる見どころである共用部に意識を集中するきらいがある。総戸数に比例して担当者が増えるわけではないとなれば、おのずと専有部は後手に回らざるをえない。売行きも重要だ。(資産性だけでなく)広告映えのする豪華なロビーやラウンジのしつらえははずしてはならないポイントとなる。
一方、収納やキッチンは生活感の浮き出る部位。暮らしの上では大事なパーツであり、宣伝リストのなかにはたしかに入るのだろうが、供給側が最重要視する一番大きなキャッチコピーになるほどの、販売促進効果を期待するにはやや荷が重すぎるのも事実だろう。
建物の部分部分で異なる設計者を多く登用することも、専有部と共用部が一貫してその住宅ならではの設計思想が形成され得ないことの理由に挙げられるかもしれない。著名な設計事務所が名を連ねていても、エントランスロビーだけであるとか、監修だけをお願いしているとなれば、どうしても住んでいる人の感覚からすれば、全体のバランスがうまくとれているのだろうかという疑問が浮かぶ。
最後に、専有部における冒険的な試みはリスクが大きいということも述べておきたい。万が一のときの対応や交換などを考慮すると大規模は保守的にならざるを得ない。工期に影響する恐れのある凝った仕上げも避けるべきだ。顧客志向の裏返しだという見方も否定はできないのだ。また、分譲事業はスピードとの戦いである。投下した資金をいかに早く回収できるかが成否を分けるこのビジネスでは、ひとつひとつの住戸プランを練り上げる時間はおのずと限られてしまう。
今回は、大規模マンションの専有部の魅力付けを阻む理由を考えてみた。みたのだが、だからといってそういうものだと納得して終わりでは進歩がない。建物のなかで最も長く居る場所が優れているからこそ、そのマンションは高く評価される。
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