コストをかけずにブランド化に成功する
コストをかけなくてもブランド化はできる!
株式会社あさひの創業は昭和24年4月。社長の下田氏は、実家が営むおもちゃメーカーの販売店として事業を任されたところからビジネスをスタートさせます。ところが、当時はスーパーの台頭などで全く事業が振るわない日々を過ごすことになります。下田社長は考え抜いた挙げ句、事業の将来性という観点からおもちゃ屋を廃業し、商品を販売した後もメンテナンスや修理の需要のある自転車店への事業転換を試みます。
ただ、自転車屋に看板を変えたからといって、翌日からお客様が押し寄せるということはありませんでした。店は相変わらず閑古鳥が鳴くような状況だったのです。
そこで、お客様も来店することなく、することのなかった下田社長は店の前の清掃を行うと共に道行く人たちに元気よく挨拶をすることを心掛けました。この元気な挨拶が、後のサイクルベースあさひが繁盛店になる大きな鍵を握ることになるのです。
普段、店の前を通り過ぎる際に下田社長から元気な挨拶を交わされた人達は、自転車を購入しようと思い立った時に、「そうだ。いつも元気よく挨拶をしてくれる『サイクルベースあさひ』に行こう」と想起するようになったのです。下田社長の元気良い挨拶が潜在顧客の頭の中に残り、「自転車と言えばサイクルベースあさひ」という再認率を高めるブランド構築に絶大な効果を発揮したというわけです。
この元気良い挨拶からサイクルベースあさひは閑古鳥が鳴くような店内から一転、町一番の繁盛店へと劇的な変化を遂げていったのです。
『顧客第一主義』をスローガンではなく、実践する
下田社長が街の繁盛店をフランチャイズチェーン化したのは平成6年10月。実に創業から45年半という長い年月が過ぎていました。顧客を満足させる秘訣を知り尽くした上で、満を持してのチェーン展開と言えます。社長の下田氏は、経営に際して顧客数をいかに増やすかというポイントに主眼を置いています。顧客単価は景気のいい時はお客様の財布の紐が緩んで高くなりますが、景気が悪くなれば途端に低くなるというように景気の波に大きく左右されます。一方で、ファン客を獲得していれば、景気の波に左右されることなく定期的に来店していただけるなど、顧客数を維持・成長させていけば景気の波に左右されない安定的な経営が実現できるというわけです。
顧客数を増やすために、サイクルベースあさひの顧客サービスは徹底しています。お客様は様々な要望を持っていますが、問い合わせがあった場合にどんな要望でも「それはできません」や「難しい」とは答えずに、まず「イエス」から入って、どのようにしてお客様の要求を実現するかを真剣に考えていくのです。会社のスローガンとして『顧客第一主義』を標榜する企業は多いですが、サイクルベースあさひの場合、それをスローガンに終わらせるのではなく、いかに実現するかという課題に果敢に挑戦しているのです。
たとえば、『顧客第一主義』を体現している事例として、顧客がメンテナンスのために来店した時は、店員はそれまでの仕事をいったん中断してまで来店客の対応を行うことになっています。すぐにメンテナンスしてもらえるなどと思っていなかった来店客が、その素早い対応に接した時、サイクルベースあさひのサービス精神に対する感動が生まれ、深い信頼を寄せるようになるというわけです。
また、サイクルベースあさひは社員一人一人がプロフェッショナルな対応を心掛けるというポリシーも徹底しています。社員は安全に関する資格を取得して、『安全の専門家』を目指すことになります。店員全員が安全のプロフェッショナルであれば、顧客にとっては店内にいる誰に聞いても専門的なアドバイスを受けられるということで、安心して来店することに繋がっていきます。
このような顧客を第一に考えた対応と豊富な専門的知識で、サイクルベースあさひは『マイ・サイクルショップ』として多くの顧客から絶大な信頼を獲得しているのです。
顧客の満足度や信頼度が高まれば顧客の流出を防ぐことができる上に、口コミによる顧客増加も期待できます。日常会話の中で自転車の話題が出れば、ファン客は自信を持って「自転車と言えばサイクルベースあさひ」と購入を薦める機会の増加に繋がっていくのです。