フリーランス進化論、独立後の展開
法人化は、フリーランスの進化的未来形の1つとなります。しかし、デザイナー職を例にとると、フリーのデザイナーとして仕事を評価されることと、会社の経営者として評価されることとの間には、当然ながら相当なひらきがあります。求められるスキルも違います。
今回は、フリーランスのアート・ディレクターを経て、株式会社を設立した原田圭祐さんに、経営センスやスキルをどうやって身に付けてこられたのか、外部スタッフとチームを組んでやる仕事のやり方など、お伺いしてきました。
プロフィール
KMSD株式会社 代表取締役。アート・ディレクター。
1976年京都生まれ。嵯峨美術短期大学テキスタイルデザインコース卒業。1999年、街づくりや商業施設開発のコンセプト開発から建築設計、デザインアウトプットまでを総合プロデュースする、北山創造研究所へ入社。アシスタントを経て、グラフィック・デザイナーとして、各プロジェクトのデザイン部門で活躍する。2005年、自分が目指す方向性をカタチにするために、フリーランスとして活動開始。CI、VI、広告を軸にコンセプト開発からアウトプットまで一貫して行う総合デザイン事務所を開設。2006年、同事務所を法人化し、KMSD株式会社を設立。
フリーとして独立するまで
・大学でテキスタイル(染色)を専攻、しかし、自分がやりたいことと違っていた。・ニューヨークのMOMAで、ビデオ・インスタレーションに出合い、大きな衝撃を受ける。
・大学卒業後、アルバイトをしながら、映像の自主制作、上映会の企画・運営、個展などを行う。
・1998年、CM制作の仕事に就こうと、活動拠点を東京へ移す。
・1999年、固定収入を得るために、会社勤めを始める。
・入社3年目、退職を考えるが、上司に説得される。
・入社7年目、“やりきった感”を得て退社。自分の方向性を目指す。
会社に入って
デザインと正面から向き合った
ガイド:独立される前の会社(北山創造研究所)では、どのようなお仕事をされていたんですか?
原田:
入社当時は、雑用です。(笑)倉庫の整理をしたり、雑誌の切り抜きをしたり。そもそも東京へ出て来て生活が安定せず、固定給が欲しいと思っていた時に、たまたま求人誌に載っていて、運良く拾ってもらった会社で、建築や環境デザインなど、全く知らない世界でしたから、Macが使えるという以外に、やれる仕事がなかったんです。
半年もするとフラストレーションがたまってきました。果たしてこのままでいいのかと。そんな時、あるメーカーさんから、各業界の専門家を集めて、新商品への意見が欲しいという依頼があったんです。僕は、雑誌や新聞の切り抜きをやっていたので、今何が流行っているとか、情報だけはめちゃめちゃ持っていたんですよ。それで、その商品について色々と意見を言っていたら、その打合せに出てみろと言われました。
その打合せ(ブレスト会議)には、業界の著名人が集まっていて、その中で取り合えずしゃべらないとと思って、発言しました。すると、次の日に、社長から“お前は何がやりたいんだ。”と聞かれて、(固定給が欲しいだけで、この会社でやりたいことはないとは言えないので)“グラフィックです!”と答えました。(笑)それで、雑用係を終えて、翌日からグラフィック部門で仕事をするようになりました。
入社して半年目で、グラフィック・デザインと正面から向き合ったという感じです。それまで、クラブのフライヤーを作ったりしてましたが、相当グラフィックをなめていましたね。(笑)作っても、上司には“何だコレ!”と言われ続けて、奥が深くて難しいことが分かりました。
やっぱり「広告」がやりたい!
原田さんが、独立後手掛けたアート・ワークの数々。一番手前は、ルックJTBのガクタビです。 |
3年目に会社を辞めようと思われたのは?
原田:
デザインの仕事を2、3年修行する中で、自分がやりたいデザインというのは、広告じゃないかと気付きました。もともと映像でCMを作りたいと思っていたこともあります。もちろん会社でやっているデザイン・プロジェクトも魅力的だったのですが、それ以上に広告への思いが強く、上司に辞めたいと話したんです。
上司からは、“今やめてどうする、まだやるべき事がいっぱいあるだろ。”と言われて、実際にそうだということもあって、その時は踏みとどまりました。
ガイド:
辞めるぞ、と踏ん切りがつけられたのは?
原田:
5年半がたったころ、新規開業のショッピングセンターの仕事で、グラフィック関係のところを、アート・ディレクター兼デザイナーとして、全て任されました。自分が見つけてきたアーティストと組んで、ポスターや電車の中吊り広告、Web、映像、館内装飾まで全てを終えたときに“やりきった感”があったんですよ。それで、やっぱり「広告」がやりたいと上司に話して辞めました。
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