起業・会社設立のノウハウ/フリーランスになる

古川皓一さんに聞く、バイオリン職人の世界(2ページ目)

フリーランスが個人事業として“1人1企業”なら、職人は、1人で最終製品を造り上げる“1人1メーカー”です。今回は、匠を目指して修行に励む古川皓一さんに取材、現代のバイオリン職人の世界をご紹介します。

執筆者:塚田 祐子

バイオリン職人になる方法は?

---バイオリン職人になるには、どんな方法がありますか?

いくつか方法があります。

製作技術を学べる専門学校へ行く
日本にも、製作技術を学べる専門学校がいくつかあります。(国立音楽院ESPミュージカルアカデミー中部楽器技術専門学校代官山音楽院 等)

イタリアの製作学校へ留学する
イタリアには、クレモナ、ミラノ、パルマに製作学校があります。卒業後、現地の工房で修行して独立する人もいます。
(※イタリアの国立製作学校への留学を希望する場合は、イタリア文化会館を通じて申請手続をしなければなりません。)

個人の工房に弟子入りする
弟子入りの場合、月謝をとって教えているところもあります。

弦楽器のメーカーに就職して技術を習得する
ただ、会社に入ると修理などが主な仕事になってしまうと思います。

---学校では、どのような授業があるんですか?

僕が通った学校は、大阪の高槻市にある「バイオリン工房クレモナ」という所です。(※現在はもう生徒募集をしていません。)

まずは木工の基本的なことを習います。刃物や道具の手入れや調整や、製作に使う特殊な道具を作ったりして作業に慣れる事から始めます。それから、バイオリンを少しずつ習いながら作っていきます。最初の楽器ができるまで1年から1年半ぐらいかかります。バイオリンのほか、ビオラ、チェロも作ります。

基本的に4年制ですが、各生徒によって作業内容もペースも違うので、あまり学年の意識はなかったです。製作以外にはイタリア語と楽器の歴史や知識に関しての授業がありました。

---どんな能力が求めらますか?

器用さ、まじめさ、それと集中力。あと、バイオリンを弾いた経験があると役に立ちます。とは言え、弾けない人も結構います。また、修理はいろんなケースへの対応が求められるので、自分で創意工夫することが大事です。楽器の注文や修理を、直接受けたりするのであれば、見積もりや納期などの計画性も必要です。

---「資格」はありますか?

日本ではちゃんとした資格はありません。イタリアにもありませんが、ドイツには国家資格として「バイオリン職人」というものがあります。イタリアの「マエストロ」はとりあえず誰でも名のれるのですが、「マイスター」はちゃんとした国家資格の所持者ということになります。

日本では資格がないので、認められるには、業界内での評価と信用を得ていくしかないですね。

本物を極める、伝統の製作手法

---バイオリンが初めて作られた16世紀から現在に至るまで、バイオリンの製法や構造はほとんど変わっていないと聞きました。バイオリンという楽器は、生まれた時に既に完成されていた、と言われるそうですが。そうすると、代々受け継がれてきた技術を忠実に引き継いで、それを再現して製作していくという感じですか?

バイオリンの製作過程最初のバイオリンはもっと弱くてやわらかい音でした。それが音楽の変化とともに必要とされる音も変化していって、今のような姿に落ち着いています。

構造や細かな部分も変化しています。工具や道具等も使いやすい物、楽器専用の物なども工夫されてきて便利になってきたと思います。

バイオリンの製法には、一般的には内型式と外型式があって、僕は内型式で作っています。まず、型に添って横板を作って、それに合わせて裏板と表板を作り接着します。接着剤は昔も今も膠(にかわ)を使っています。そこにネックを取り付けて、ニスを塗ってパーツなどを調整して完成します。製作日数は、白木から完成まで、ニスを塗って音を出すまで、合わせて2ヶ月くらいかかります。


---音色は、作る人によって大きく違いますか?

製作者によって、微妙にカーブや膨らみなどが違いますし、作業の精度も違い、そこが音に影響してきます。材料も産地や乾燥の程度によって大きな違いがあります。音色は作られてから年数が経つほどに違いが出てきます。いい加減に作られた楽器だと、だんだんと悪くなっていきます。

---作り手による違いというのは、他にどういうところに出てきますか?

バイオリンふちの白と黒の線はパフリングといい、書いているんじゃなくてああいう木を埋め込んでいます。見た目にも綺麗ですし、外側からの割れを食い止める役割もあります。このパフリングとネックのスクロールに、その職人の腕前がよく現れます。

バイオリン職人はニスも自作するのですが、使う樹脂や溶剤などで乾燥する速度や色、艶などが全然違います。 ニスは20回から30回ぐらい塗りますが、色むらが出てきたり表面がデコボコになったりするのを修正しながら塗って行くので僕の場合は1ヶ月ぐらいかかります。

一人前と言えるまでには10年かかる

---現在はどのようにお仕事されていますか?

バイオリン職人の道を選択してから6年目。昨年、クレモナのバイオリン製作者コンクール「トリエンナーレ」へ出品して入選、ディプロマを取得して、職人として初めて評価されました。現在は、自宅で楽器を作り、展示会や楽器店に出して売ってもらっています。あと、弦楽器店からの仕事で、修理や調整等の仕事を引受けています。

---よく一人前まで修行何年といわれますが?

一通り楽器を作るだけなら3年ぐらいで出来るようになります。それ以外にもいろんな経験が必要だと思います。他の職人さんや演奏をされる方との交流が重要だと思いますので、一人前と言えるまでは10年ぐらいかかるのではないでしょうか。

---楽器づくりは、全部1人で? それとも分業で?

基本的に全て一人でやります。立派な工房を構えている人は、弟子などにある程度手伝わせる人もいます。工場生産の安い楽器は、各部を分業制で作っています。

---この仕事のやりがいと苦労はどんなところにありますか?

難しそうな作業が上手くいった時、達成感があります。でも、出来がいまいちだったり失敗したりすると、すごく落ち込みます。楽器が売れた時も嬉しいですけど、弾いてもらってほめてもらうと嬉しいです。楽器として完成しても、数年経ってみないと実際の性能が分らないので、そこが難しいですね。材料によっても違いますし、やはり、経験が必要だと思います。

それでも、製作は慣れればある程度はできるようになりますが、その後、自分の楽器を売ることが難しいです。新作の楽器はどうしても、よく弾きこまれた楽器と比べるとまだ音が出にくいので見劣りしてしまいます。

仕事としての将来展望は? 次ページへ続きます>>
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