■眺望をさえぎり慰謝料255万円の支払い命令
あたかも「竹の子」のように、全国各地でタワーマンション建設が行われていますが、眺望が魅力の同マンションのすぐそばに別の高層マンションが建設され、その結果眺望が阻害されたとして不動産業者に慰謝料を請求した裁判が起こされました。訴えを起こしたのは住友不動産が北海道札幌市内に分譲した15階建てマンションの13階および14階に住む住民で、南側に同じく15階建てマンションが原告住民側マンション完成後に新たに建設されたことで眺望が台無しになったとして札幌地裁で争われました。
興味深いのは、眺望が失われたのだから本来であれば眺望権が争点となってしかるべきですが、原告側マンションの分譲業者も、眺望をさえぎったマンションの分譲業者もどちらもが住友不動産で、しかもマンション完成時期の“時差”がおよそ2年のため「眺望を害しないよう配慮する義務を負うべき」のはずが、当該事例では眺望の良さを売り物にマンションを販売しておきながら、同じ会社がその眺望を阻害するマンションを建設したとして信義則違反で争われたのです。
さらに、福岡市博多区でも同様に眺望阻害を原因としたトラブルが起こっており、こちらは販売時に営業マンより「南東の土地は狭いから高い建物は建たないし、その先は公園になる」との説明を受けていたことなどがあり、さらに根の深いものとなっています。
札幌地裁の事例では原告側の主張が一部認められ、住友不動産に合計で255万円の賠償が命じられましたが、一方、博多の例では現在も平行線をたどっています。
■良好な景観形成のための規制をする法律が創設される
1年間で15万戸超もの新築マンションが全国各地で建設されている現状をかんがみれば、自宅マンションの隣地に新築物件が計画されることは決して不思議ではなく、それだけ分譲マンション業界は供給過剰であることを意味しています。近隣住民の「建設反対」運動がメディアに頻繁に取り上げられるのも、こうした背景があってのことなのです。
そこで国土交通省では前例の眺望阻害をはじめ、建物のデザインから街並みの整備、さらに屋外広告物の制限など『良好な景観の形成』を図ることを目的に景観法が策定されました。
現状でも「建物の高さ制限」など各自治体単位での条例は存在しますが、法的な位置付けが不明瞭なため、基本理念にのっとり国・地方自治体・事業者、そして住民それぞれの責務をはっきりとさせることで遂行主体を明確にし、景観計画を策定することで建築物の高さやデザイン、さらに色彩についても規制が行えるようになりました。また、景観協定を定めることで住民合意によるきめ細かな景観に関するルールづくりが成し得るようになりました。
■求められる「点」から「面」への都市開発
景気回復の原動力として各地で「再開発」が盛んに行われていますが、どれも綿密な都市計画によって計画的に一定のスケールをもって行われています。一方、札幌や福岡の例は無秩序な建設計画が原因で、地域住民を無視した開発行為といえます。
これからは分譲マンション業者にも「点」ではなく「面」としての街づくりを心がけてもらいたいものです。
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