タワーマンションの魅力の1つに、高層階からの眺望があります。未完成マンションの契約に際し、担当営業マンから眺望や景観のよさを説明され、本人もその点が決断理由となって購入を決意しました。ところが建物完成後に実際の眺望を見てみると、営業担当者の説明とは異なり視界が阻害されていることがわかりました。
買い主は“話が違う”とばかりに訴訟を起こし、売買契約の解除ならびに損害賠償を請求しましたが、はたしてこの裁判の結末はどうなったでしょう?平成11年9月に大阪高等裁判所で実際に出された判決をもとに考えてみましょう(判例タイムス1051号286頁より引用)。
二条城が見えることが契約の理由
まずは紛争の経緯からです。買い主は新築分譲マンション(未完成)のモデルルームを見学し、営業担当者から「居室の西側の窓から二条城の眺望・景観が広がっている」との説明を聞きました。当初から眺望を重視していた買い主はその点を気に入り、6階の1室(4560万円)の契約を締結しましたが、その9カ月後に本件マンションの内覧会が行なわれ、完成した居室に入ってみると
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ことが判明しました。現実を目の当たりにした買い主は「これらの説明を受けていない」として、当該売買契約の解除ならびに手付金(460万円)の返還を求める内容証明郵便を発送、その後提訴して、売り主の説明義務違反を理由に損害賠償を請求したのです。
営業マンの説明が十分であったかが問われる
今回の訴訟は“青田売り”のマイナス面を露呈した一例といえます。新築マンションは建物が完成する前に売買契約を締結する(=「青田売り」といいます)ことが通例ですが、検討対象物を見ることも触ることもできないまま契約しなければならない現実が、本件のようなトラブルにつながっています。
それだけ販売業者には、購入検討者に対して、その売買目的物の状況についてその実物を見聞きできたのと同程度まで説明する義務があるということです。分譲マンション業者が作成したパンフレットには、当マンションの本件居室からは二条城の眺望・景観が広がることが謳(うた)われており、また、営業担当者は「隣接ビルは5階建てであって、6階にある本件居室の西側窓からは視界が通っている」と発言し、説明していました。にもかかわらず、現実には西側窓の正面に隣接ビルのクーリングタワーがあるため、二条城の緑がほとんど見えない状態だったのです。
営業マンは、買い主が二条城への眺望を重視して、本件居室を購入する動機としていることを認識していたわけですから、「青田売り」販売する者として、バルコニーや窓からの視界を遮るものがあるかどうかを調査確認して、正確な情報を提供する義務があったといわざるを得ません。隣接ビルの屋上にクーリングタワーがあって本件居室の西側窓の正面に位置し、そのため、視界が不十分となる可能性が高いことが契約前に説明されていれば、買い主が購入しなかったことは明白だからです。
契約解除と手付金の返還
大阪高裁では、原告(買い主)側の請求をほぼ認め、手付金460万円を全額返還して当該売買契約を解除し、さらに、慰謝料30万円(原告側の請求額は165万円)ならびに弁護士費用50万円(同100万円)など、総額558万円の支払いを被告側に言い渡しました。
株式や投資信託など金融商品の取り扱いに関しては、証券外務員有資格者にのみその販売の勧誘が認められ、また、投資者保護の観点から、投資勧誘を行なう際に“守るべきルール”が確立されているのに対して、不動産取引に関しては、まだまだ未整備な状態ではないでしょうか。最終的な判断が買い主による「自己責任」であることは、金融の世界も不動産の世界も変わりありませんが、その過程における「リスク開示」や「十分な説明責任」の履行において、住宅販売では多くの課題を残しています。
今回の裁判結果が単なる判例ではなく、誰にとっても“常識”となるよう、「売る側」「買う側」両者がともに、今一度コンプライアンス(法令順守)について考えるきっかけにしてほしいものです。
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