「判断のバラツキをなくす」の背後にあるもの
今回の認定調査見直しにおいては、もう一つ、大きな変更点として、麻痺、拘縮の判断方法があります。麻痺、拘縮は、原則として実際に自分で(麻痺)、あるいは他動的に(拘縮)動かして、有無を判断することになりました。「これまでも可能であれば動かして判断することになっていた。テキストに判断基準を図で示してわかりやすくしただけで、変更したわけではない」と鈴木氏は言います。しかし、私が認定調査を行っていた自治体では、麻痺や拘縮のある四肢を少し動かしてもらうことはあっても、実際にすべての手や足を動かして判断することはありませんでした。
本当に「原則として動かす」ということになったら、認定調査員の負担は非常に大きくなりますし、無理に動かして対象者にけがをさせる等の心配もふえるのではないでしょうか。
また、今回の見直しにより、麻痺、拘縮の有無は、あくまでも「この調査で定められている動作」ができるかできないかで判断されます。つまり、調査で調べた範囲での麻痺や拘縮はなくても、生活上支障がある、といった事情は認定調査においては考慮されないのです。これも「個別の状況は特記事項に」(鈴木氏)書き、審査会で検討することになります。
そのほかにも、「排尿」「排便」「食事の摂取」「歩行」「立位」の項目で判断基準の変更がありました。「排尿」「排便」では、これまでポータブルトイレを介助者が片付けていたら介護の手間と認められていたものが、直後に片付ければ介護の手間と認められますが、後でまとめて片付けたら介護の手間と認められないことになりました。すでに介護関係者の間では、「直後とは何分後までか」という議論が起きています。
「食事の摂取」では、これまでテーブル上で魚をほぐしていたら介護の手間と認められていたのが、認められないことに。「歩行」「立位」では、膝に手をついて歩いたり立ったりしていたら、これまでは「何かにつかまればできる」だったものが「支えなしでできる」「つかまらないでできる」に変更になりました。
なぜ変更になったのかを尋ねても、鈴木氏から明確な答えはなく、「個別の状況は特記事項に書いてほしい」というばかりです。「細かい点をいろいろ見ていくと、気になることはあるかもしれない。しかし、これまで勘案することでバラツキが多かった判断が、その時点での状況で判断することで、バラツキはなくなると考えている」という鈴木氏の言い分は理解できますが、ばらつかずに、みんな要介護度が軽くなる、と思えてなりません。
また、審査会委員からは「審査会で一次判定を変更しにくくなる」という声も上がっています。これについて鈴木氏は、「特記事項に書くことを明確化しており、むしろ今後は一次判定を変更するかどうかを判断しやすくなると考えている。これまでも適正に認定調査を実施し、審査会運営をしている自治体においては、今回の改定を経ても何ら変わることはないとも言える。変更しにくい、というのは、これまで変更事由が適切ではなかったということではないか」と言います。
「一次判定から審査会で要介護度を重くする『重度変更』が問題なのではない。適切な理由なく変更が行われていたことが問題だった。これをなくしていくのが今回の項目変更、判断基準の変更の目的だ」と言う鈴木氏。
今回の認定調査の様々な変更については、2009年4月にも検証委員会を招集して、早急に検証作業に取りかかるそうです。検証により、変更による不都合が見つかれば、再度変更することもあり得るとのことでした。私は、「特記事項が適切に書かれているかどうか、審査会できちんと読まれているかどうかを、しっかり検証してほしい」と訴え、取材を終えました。
鈴木氏に話を聞いてみて、厚生労働省の「論理」はよくわかりました。
調査員の勘案で判断にバラツキが出る、という点は、私も感じていたので、それを是正しようという意図は間違っていないと思います。しかし、だとすれば、その変更によってこぼれていくものをきちんと拾い上げていく仕組みを作らなくては、適正な認定はできないのではないでしょうか。
残念ながら、その部分への配慮が欠けているというのが、正直な印象です。
新しい認定調査はもう始まっています。
早急な検証作業を期待したいと思います。