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認定調査の判断基準はなぜ変わったか

2009年4月から、要介護認定調査の項目数は82項目から74項目に削減。さらには、判断基準も大きく変更になりました。なぜこれだけ大きく変更したのか。厚生労働省に取材しました。

執筆者:宮下 公美子

公の議論がなかった判断基準変更

2009年4月から、要介護認定の調査項目が82項目から74項目に変更になると同時に、判断基準も大きく変わりました(項目削減についてはガイド記事「要介護認定調査、23項目削減へ 」を読んでみて。2009年4月に最終削減内容について加筆してあります)。

認定調査員テキスト
2009年版テキストは、3月に入って修正された。修正版テキストは厚生労働省のサイトからダウンロードできる(記事末尾のリンク参照)
項目変更については、厚生労働省「要介護認定調査検討会」での議論の経過を議事録や資料を見ることで、変更の経緯や背景を知ることができました。ところが、判断基準の変更は寝耳に水。私は公表された認定調査員用のテキストを見て、これほど様々な判断基準の変更があったことに驚きました。

最も大きな変更は、各項目について、調査時点での状況のみから判断することになった点。これまでは、認定調査員が調査時点での状況と、本人や家族から聞き取った状況から能力や介護の手間を勘案して判断していたのですが、勘案は一切認められないこととなりました。

つまり、ふだん名前を聞かれても答えられない認知症のかたが、調査の時にたまたま名前を答えられたら、自分の名前を答えることが「できる」。何かにつかまらないと立てないかたも、たまたま立てたら「つかまらないでできる」となります。

ふだんはできないのに…というような個別の状況については、すべて「特記事項」に書き込みます。要介護認定審査会では、特記事項と主治医意見書に書かれた個別の状況から介護の手間を読み取って、必要に応じて一次判定で示された要介護度に要介護認定基準時間を足し引きし、要介護度を決定するというのです。

これは、認定調査の方法を転換する、非常に大きな変更です。
なぜこれだけ大きな判断基準の変更が、一般には知らされることなく行われたのか。
厚生労働省老健局老人保健課課長補佐・鈴木健彦氏に話を聞きました。

一般への周知不足は反省している

なぜ、判断基準の変更については公の場で議論されなかったのか。一般市民からすると密室の議論で、突然、変更されたような印象です。

これについて鈴木氏は「『要介護認定調査検討会』は認定項目等認定のロジックについて検討する場であり、判断基準について検討を行う場ではなかったから」と言います。判断基準については、以前から、要介護者の能力や介護の手間の勘案にバラツキがあり、適正な認定上、支障があると考えていたとのこと。

そのため、今回、「目に見える」、「確認し得る」事実によって調査を行うことを原則とし、個別に勘案すべき状況については特記事項に記載することを徹底したそうです。「ただし、一般のかたに対し、判断基準の変更を進めているという事前の情報提供が不十分だったことは反省点」とのことでした。

「検討会では、これまで判断基準について検討したことはない」と言われて、そうか、と思ったのですが、よくよく考えてみれば、これだけ大きな判断基準の変更は初めてのこと。検討したことがないのは当然です。今後は、密室での議論ではなく、公の場で検討した上で変更してほしいと思いました。

なぜ「介助されていない」なのか

今回の変更では、「移乗」「移動」などの調査項目において、いったん、「自立(介助なし)」とされていた選択肢が、3月になり、利用者団体などからの猛烈な抗議を受けて「介助されていない」という表記に変更になりました。

この変更は鈴木氏によると、「『移乗』や『移動』などは、『介助の方法』を評価する項目。にもかかわらず、『自立』という『能力の程度』を評価する選択肢を設定したために、混乱が生じてしまった。このため、『介助されていない』という『介助方法』を評価する選択肢に変更した」とのこと。

説明は理解できますが、「介助の必要がなくて」介助されていない、つまり「自立」のかたと、「介助の必要があるのに」介助されていない、つまり介助が不足しているかたが、同じ「介助されていない」になるのはどうも納得できません。また、これまで「全介助」とされていた寝たきりのかたが、移動や移乗などの介助を受けていないことから「介助されていない」、つまり「自立」とされることにも違和感があります。

これについて鈴木氏は、「これまでの認定調査では、寝たきりのかたは『もし介助を受けるなら全介助だろう』など、調査員が勘案して判断していたために、判断にバラツキが出ていた。そこで、実際に直近の1週間以内に介助を受けていないのであれば『介助されていない』を選択し、月1回でも介助されているのであればその状況を特記事項に書く、ということにした」と言います。確かに判断基準はすっきりしました。判断のバラツキもなくなるかもしれません。

しかし、だからといって、この変更がいいとは言い切れません。
介助の必要がなくて介助されていない場合と、介助の必要があっても介助を受けていない場合が混在する点については、「実際の状況を特記事項に記載してもらって判断する」とのこと。つまり、「介助されていない=自立」を選んでも、特記事項を読めば、介助の実際が書かれているので、審査会で一次判定を変更する必要について検討できるというのです。これも説明自体は理解できますが、「介助されていない(=自立)」を選択しても、特記事項から拾って審査会で一次判定を見直せるから適正な判定が可能、という言い分は納得しにくいものがあります。

審査会で特記事項をそんなに読み込んでもらえるのか。
特記事項に、実際の状況をそんなに的確に書ききれるのか。
様々な疑問がわき起こってきます。

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