認知症の認定は大丈夫なのか?
その他、検討会で検討課題となり、結局、残った項目に「つめ切り」があります。「つめ切り」がなぜ検討課題になったかといえば、施設入居者やデイサービス利用者の場合、自分で切る能力があっても、介護職が切ることが非常に多いからです。認定調査は原則として「日頃からその行為を自分で行っているかどうか」を評価するもの。ですから、デイサービスで手足のつめを切ってもらっている人は、自分で切ることができても「全介助」。同じように自分で切れる人なのに、デイや施設を利用しているかいないかでチェックが違ってしまうのは問題だ、というわけです。
同じような項目に、「電話の利用」があります。施設では、自分でかける能力があっても、介護職がダイヤルして受話器を渡すということがよくあります。つめ切りと似ていますが、こちらは正しい評価、判断が困難という理由で削除案に入りました。では、なぜつめ切りが残されたかといえば、つめ切りは手先の力、細かい動き、視力、足のつめ切りであれば体の柔軟性など、さまざまな能力を一度に評価できるから、とのこと。また、認定ロジックの樹形図の中でポイントとなっているため、今回削除を免れたようです。
私がいた自治体では、認定調査における評価は、基本は現状から見て行うものの、場合によって能力を勘案するよう指導がありました。ですからつめ切りについては、「デイサービスで切ってもらっているが、指先に力もあり、細かい作業は可能であるため、自立と勘案」などと特記事項に書き、「自立」にチェックを入れることもありました。しかし、全介助にチェックが入り、「デイサービスで切ってもらっている」としか書かれていなかったら、自分で切る能力があるかどうか、審査会では判断できません。
つめ切りのように、特記事項に書くべきポイントが明確なものは、それを現場の調査員にきちんと伝えてほしいものです。このつめ切りの項目の重要性や特記のポイントなど、私は今回の検討会の議事録を見て初めて知りましたから。
その他、削除案に決まった理由を見てみると、「感情が不安定」は、高齢者でなくても不安定な人がいるから、でした。それをいうなら、新しく付け加えることが決まっている6項目のうちの一つ「話がまとまらず、会話にならない」人も、年齢にかかわらず、大勢いる気がするのですが。今ひとつ、削除基準がわかりません。
この削除案23項目は、削除されると決まると、特記事項も書かれなくなります。それを考えると、問題行動を評価する7群から、14項目も削除案に上がっているのが気になります。これだけ削除して、特記事項もなくなって、認知症の認定精度は下がらないのでしょうか。認知症の場合、「「感情が不安定」「同じ話を繰り返す」「「家に帰る」「外出先から戻れない」「1人で外に出たがる」「火の不始末」あたりは、よくチェックを入れていた覚えがあります。チェックを入れたら、頻度と状況について必ず特記を書きます。身体的にほぼ自立でも、このあたりにチェックが入って特記をしっかり書いてあれば、要介護1程度にはなったように思います。それがすっぽりなくなると、まさか、自立……?
果たして、実情にマッチした認定ができるのでしょうか。
新しく付け加わる6項目でカバーできるのか? ちょっと不安です。
【2009年4月3日加筆】
2009年4月、厚生労働省「要介護認定調査検討会」での議論を経て、要介護認定の調査項目は82項目から74項目に変更になりました。削除された項目は14項目。新規追加になったのは6項目でした。
【削除された14項目】
- 火の不始末や火元の管理ができない
- 実際にないものが見えたり、聞こえる
- 暴言や暴行
- 不潔な行為を行う(排泄物を弄ぶ)
- 食べられないものを口に入れる
- 肘関節の拘縮
- 足関節の拘縮
- じょくそう
- 皮膚疾患
- 飲水
- 生活の不活発かの原因となるような家族・居住環境、社会参加等の変化
- 電話の利用
- 介護者の指示への反応
- 日中の生活
【新しく追加された6項目】
- 意味もなく独り言や独り笑いをする
- 自分勝手に行動する
- 話がまとまらず会話にならない
- 集団への不適応
- 買い物
- 簡単な調理
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