特に、生活騒音を原因としたトラブルは日常的で、警察沙汰にまで発展することも珍しくなくなっています。残念なことと言わざるを得ません。そこで、実在した事件や裁判例をもとに、「上下階の騒音」について考えてみたいと思います。
「足音がうるさく辛抱できなかった」 上階の女性が刺される
時は07年12月24日のクリスマス・イブ。世の中がウキウキムードに包まれる中、愛知県内のマンションで女性(35)が腹などを刺される事件が発生しました。報道によると犯人は、被害女性宅の真下の部屋に住む男性(38)で、「物音がうるさかった」ことをきっかけに犯行に及んだと話しています。被害者宅は3人の子供を含む5人家族で、これまでにも言い争ったことがあったそうです。
こうしたニュースを耳にすると、マンションにお住まいの誰もが「他人事ではない」と感じることでしょう。なぜなら、 程度の差こそあれ、誰しもが上階からの騒音を気にしているからです。事情聴取で犯人は、「普段から上の階の音が気になっていた。今日もうるさくてキレてしまい、刺した」と供述したそうです。また、「毎日のように天井から音がする。昼間でも足音がうるさい。辛抱できなかった」と話したといいます。これではうかつに部屋を歩くこともできません。上階の住人は窮屈な日常生活を強いられることになります。実に、悩ましい問題といえるでしょう。
では、なぜ、マンションでは騒音に関するトラブルが絶えないのでしょうか? もちろん、戸建て住宅とて騒音に悩まされる心配がないわけではありません。しかし、マンションに多いのは、言うまでもなく建物の構造に特殊性があるからです。「上階の床は下階の天井」……住戸同士が上下左右に隣接して建てられている共同住宅ゆえの宿命なのです。
さらに別の理由として、人によって感受性に「差」があることも大きく関係しています。「うるさい」と感じるかどうかは、人それぞれ。いくら遮音性能の高いマンションであっても、防音には限界があるわけです。そのため、本人は音を出さないよう気をつけていても、人によってはうるさいと感じたり、逆に、気にならない人はまったく気にならないというような現象が起こります。それだけ、音は「主観」の影響を強く受けるのです。騒音トラブルは実に根の深いデリケートな問題であることが、ご理解いただけることでしょう。
<騒音トラブルがなくならない3つの理由>
|
引き続き、次ページでは上記3番目の理由「生活音を取り締まる法律が未整備なこと」について説明します。