第一回目の値下げ交渉は管理会社に軍配
管理費の値下げをめぐる攻防戦が本格化する |
この時の様子を大竹さんは、「相場観もなく、委託管理費の内訳も知らずに漠然と値下げ金額を設定したのが敗因」と振り返ります。また、「他の理事からの協力を十分に得られなかったことも状況を不利にした」と指摘します。要は、事なかれ主義を完全に払しょくできなかったわけです。チームプレーなくして勝算は見込めないということを、思い知らされる結果となりました。こうして第一回目の値下げ交渉は、事実上、管理会社の軍配で幕を閉じました。
それから第二回目の値下げ交渉の時期を迎えたのは、2008年の春のことでした。この時は前回と風向きが180度異なり、管理組合には強い追い風が吹いていました。大竹さんは理事会の相談役となっていましたが、大竹さんと意識レベルを同じくする理事長・副理事長・各役員が理事会を固めることとなったのです。
さらに、マンション管理のコンサルタント会社「シーアイピー」(東京都中央区)との出会いも追い風となりました。「管理組合が自力で委託管理費の削減交渉をするのは容易でなく、また、理事会が透明かつ公平にマンション居住者に対して削減の経過説明をするのも困難を伴うと感じていた」(大竹さん)。その矢先、力強いパートナーの登場はまさに“渡りに船”そのものでした。こうして、シーアイピーとの二人三脚が本格始動することとなりました。
管理会社を「変更するリスク」と「変更しないリスク」
シーアイピーによる勉強会を繰り返し、第二回目の値下げ要求額は年額700万円ダウンの800万円に設定することを決めました。この情報を伝え聞いた管理会社の担当部長からも、「貴マンションは、設計・施工・販売・管理を一貫して行ってきた当社の結晶ともいうべきマンションです。モデルマンションとも言える大切な存在だけに、何としても引き続き管理させてほしいと考えている」と、目標到達の手ごたえを感じさせるコメントをいただいていました。
ところが、ふたを開けてみるとまたしても期待を裏切られる結果に……。
管理会社からの提示額は何と200万円ダウンの1250万円。しかも、目標金額(800万円)にほど遠いだけではなく、清掃スタッフを人員削減して定期清掃の回数を年6回から4回に減らすというスペックダウンを伴った提案でした。前もってフロント担当者からは「スペックを下げずに年額1000万円以下に値下げすることが支店内の会議で決まった」と聞いていただけに、この報告は到底、承服できる内容ではありませんでした。
そこで、担当部長を問い詰めた大竹さん。部長の口から発せられた言葉は、「1000万円以下で見積もりを提出する予定でしたが、社長から叱責されてやむなく1250万円としました」という弁明の言葉でした。「開いた口がふさがらない」とは、まさにこういうことを言うのでしょう。最終的に第二回目の交渉は、スペックダウンを伴う年額1250万円で決着することとなりました。そして、こうした対応の悪さが次々と積み重なり、当初は委託管理費の削減を目的としていた管理組合も、ついに管理会社の変更という最終手段を新たな目標に掲げざるを得なくなっていきました。
「ただ、その当時、管理会社の変更を決断するには迷いもあった」と、揺れ動く心の変化を大竹さんは打ち明けてくれました。『管理会社を変えるリスク』の存在です。多大な時間と労力を費やして管理会社を変更したところで、新しい管理会社が管理組合の期待水準を確実に上回る保証はどこにもありません。会社選定に失敗し、かえって管理の質を悪化させるような事態になったら、それこそ目も当てられないわけです。実際、理事会の中には「賛成派(変えるべき)」と「反対派(そのままでいい)」が混在し、意見が割れていたのも事実です。
決断に迷う中、力強く支えてくれたのがコンサルタント会社のシーアイピーでした。独自のノウハウや豊富な経験を活かし、公平かつ公正・透明なアドバイスをしてくれたことが強力な後押しになったといいます。
では、その後、どのようにして新たな管理会社を選び、業務を引き継いでいったのでしょう。また、目標の削減額800万円は達成することができたのでしょうか? ―― その全貌は、次回のコラムで詳しくご紹介します。
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