2002年に話題になった、ノーベル化学賞受賞の田中耕一さんの場合も偶然が発明のきっかけになっている。
島津製作所の社員である田中さんは、たんぱく質などの生体高分子の構造分析をするための質量分析法の研究をしていた。
この質量分析法は分子構造を知る方法として現在も広く利用されているもので、分子を気化させイオン状態にして真空中で解析するものである。しかし生体高分子は気化させようと加熱すると分子が壊れてしまう問題があった。
田中さんはこの問題を生体高分子をグリセリンなどの液体で包み、レーザーを当てて加熱する方法で解決しようと試みていた。
試行錯誤の連続
最初は加熱不足となりうまくイオン化できずに、試行錯誤を繰り返していた。この中でグリセリンとコバルトの超微粉末を誤って混ぜてしまった。しかしこの混合液によって生体高分子を包みレーザーで加熱したら、壊れずに見事イオン化できたのである。
この偶然の方法により、たんぱく質の分析が格段に短縮され、それまで1週間かかっていたものが、1分以内で分析できるようになったのである。
課題を解決しようとする多くの試行錯誤の中から、このような偶然が生まれている感じだ。飽くなき挑戦が偶然を呼び込む感じである。試行錯誤の行き詰まりが通常と違った行動を引き起こし、新しい結果を偶然として現すのかも知れない。
偶然からヒット商品
身近なものでは、花王の“クイックルワイパー”がある。紙おむつに使われていた不織布繊維が髪の毛などを絡み取ることを偶然発見し、商品化が進められた。
“写メール”のヒット商品も偶然の光景からの発想がもとになっている。J-フォンの開発者が両親を連れて箱根を旅行した際、ロープウェイに乗り合わせた一人の観光客が、ロープウェイからの光景を携帯電話のメールで一生懸命文章にしている姿を偶然見かけた。「感動は誰かと共有することで何倍にも膨らむ」とヒントを得開発のきっかけになった。
常に悩み考えていると、ちょっとの偶然がヒントとなり悩みの解決を与えてくれるようだ。やはりアイデアには悩みがカオスの状態が必要なようだ。
この他にも偶然による発明の話しは多い。世界には大きな発明がこの偶然により生まれている。次回は世界発明で偶然により生まれたものを探り、この偶然を呼び込む秘訣を考えてみたい。
<関連リンク集>アイデアの発想法
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