我が国の特許出願制度は先願主義である。つまり同じ内容の発明を複数の人が特許出願した場合、出願日の早い人に、その特許権を受ける権利が与えられる。でも、世の中は不思議なものである。同じような発明が、世界同時発生的に現れることがなんと多いことか。
たとえば、ライト兄弟が有人飛行機を発明したのは有名だが、日本初の飛行機発明家である二宮忠八もこれに前後して優れた構造のものを発明している。またエジソンとベルは電話機の発明競争をしていたが、同時にヨーロッパでも同じような実験が進んでいたようだ。この世界を形づくっている目に見えない力、設計図のようなものの存在を感じるのは私だけではないと思う。
これらの現象を、”形態共鳴”という仮説で説明したのが、ルパート・シェルドレイク博士である。1980年の『生命のニューサイエンス』という著書で提唱した。
20世紀初頭、ウィーンの工場からロンドンの得意先に運ばれる途中の一樽のグリセリンにおかしなことがおこった。まったくの偶然だが、その間に起こった種々の動きのまれにみる組み合わせにより、結晶化しないはずのグリセリンに結晶化が起こったのだ。その後化学者が、あるひとつのグリセリン試料を使った実験で結晶化に成功すると間もなく、実験室にあった他のすべてのグリセリンが自然発生的に結晶化し始めたのである。
また一匹の猿が芋を洗うようになったら、その島の猿はおろか遥か遠いところの猿も芋を洗うようになった。さらには、ネズミの一匹がある複雑な行動を学習すると、その日から全世界の同種のネズミがその行動をより容易に行えるようになった事例もある。
人間のアイデア発想における形態共鳴の効果についても、様々な検証が行われているが、上記発明の歴史を見ると、形態共鳴現象は経験的に理解できる感じである。人間社会の集団を構成する一部のグループの発想があるレベルに達すると、他の未成熟というか、新しい発想に気づいていない人間社会へと急激に伝播していく様である。
その結果、社会全体が次のレベルへと拡大し、新たな発想のレベルを待つといった構造である。そして世界同時期に、同じような問題を抱え、同じような発明が生まれる現象が起こる。このようなことから、発明者は1日でも早い出願をせかされることとなるのだ。しかしこれは、発明を早期公開することで産業発展に寄与するという、特許の趣旨に合う形となり、先願主義の意義も大きいといえるだろう。
<関連サイト>
●生命のニューサイエンス(工作舎の本)
http://www.kousakusha.co.jp/DTL/newscience.html
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