コーチングも悩みに直接かかわらず、「人」に踏み込む
もし、あなたがお釈迦さまだったらどんなコーチでしょう? |
コーチングで焦点を当てるのは以下の二つの主題です。
■ 「小さな主題」:相手が現在直面している具体的な課題や悩みなど
■ 「大きな主題」:「小さな主題」と関連して見えてくる相手の人間的な成長や人生をどう生きるかに関わるもの
冒頭の例では、「会社を辞めるか・辞めざるべきか」が「小さな主題」であり、「会社を辞めたい」と思っている友人の心に現れているものが「大きな主題」です。例えば、大切にしたい価値観、はまり込んでいる思い込み、直面するのを避けている感情などが、相手が「小さな主題」を話す中で見えてきます。
コーチングでは、相手が直面している問題に直接取り組むのではなく、こうした価値観、思い込み、感情を入り口にして、目の前の「人」自体に踏み込んでいくのです。
「星」か「空」か? コーチングとお釈迦さまの違い
このように共通するところのあるコーチングとお釈迦さまのアプローチですが、行き着く先は違っているようです。コーチングでは相手を光輝く「星」(スター)と考えているのに対し、お釈迦様はすべては「空」(くう)であると考えたからです。
コーチングでは、人間は「もともと完全な存在であり、自ら答えを見つける力を持っている(Client is naturally creative, resourceful and the whole)」存在だと信じて相手にかかわります。そして、相手が以下の「3つの指針」に沿って生き、「星」として輝くことをサポートします。
1)大切にしたい価値観を100%尊重すること
2)思い込みから自由になって自ら人生を選択すること
3)避けていた感情や体験を受容して全てを味わいこと
一方のお釈迦様は、欲求だけでなく、そもそもの自分という存在も含め、すべては「空」であると説きました。
「釈迦の至った悟りの境地は、「無我」だと言われる。(中略)どちらにせよ、欲求の存在や、死の恐怖について直接悩むのではなく、悩むところの自分のがない、あるいは、悩む主体は自分ではない、というメタレベルでの解決なのである。」(前掲書・『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか?』より)
相手は「星」なのか? そもそも「空」なのか? どちらかはさておき、相手が話している問題に焦点を向けるのをひとまず止めて、目の前の相手自身をよく見つめてみましょう。 それだけで何かこれまでと違ったかかわり方が生まれてくるでしょう。
【参考書籍】
■『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか?――ロボティクス研究者が見た脳と心の思想史』(前野隆司著 技術評論社)
■『Co-Active Coaching: New Skills for Coaching People Toward Success in Work And Life』(written by Laura Whitworth, Karen Kimsey-House, Henry Kimsey-House and Phillip Sandahl Davies-Black Publishing)
【関連記事】
■コーチングの基本を知ろう! 焦点を当てるのは「答え」ではなく「力」
■コーチングの基本を知ろう! 新入社員の中にも「答え」はある?!
■コーチングの基本を知ろう! 部下は輝くスター(星)なんです