「仕事は見て盗むもの」。そう考えている上司も多いでしょう。しかし、これでは変化の激しい現代のスピードから遅れてしまいます。部下はもちろん、上司自身も組織も成長する方法をご紹介します。
《CONTENTS》●“職人養成型”教育はもう古い(1P目)●言葉にするから進化が加速する(1P目)●共同化・表出化・連結化・内面化の4つのプロセス(2P目)●上司と部下が協力してプロセスを加速させる(2P目)
“職人養成型”教育はもう古い
最初に一つ質問です。あなたが行っている仕事の「マニュアル」はありますか? 新しいメンバーや部下が入ってきたときに、仕事のやり方をどのように伝えていますか?製造現場、フランチャイズ店などはともかく、ホワイトカラーの仕事の多くはまだマニュアル化されていない企業が多いのが現実です。
「マニュアル化できるような単純な仕事ではありません」
「言葉では表現できないところが最も大事なんです」
こんな理由を挙げて、マニュアルがないことが当たり前だと主張したり、もしくは自分の仕事が高度である証拠のように思っている人もいるかもしれません。
「上司、先輩の技を盗め」「とにかく経験して身体で覚えろ」
日本ではいまだこういった形での「教育」が行われています。これは昔の職人を育てる際のやり方です。確かに、時間がゆっくり流れ、余裕がある時代であればこれもよかったでしょう。当時の職人見習いは、最初の何年も雑用しかやらせてもらえませんでした。一人前の仕事をしたくても、その機会はなく、親方から求められもしなかったのです。その中で、なんとか早く一人前になりたい一心で、必死で技を盗み、身体で覚えていったのです。
しかし、今は変化が激しく、人材の流動化が進む時代です。短期間で部下を一人前にすることが上司に求められ、部下にも一人前の仕事をすることが求められる中で、やり方だけがゆったりした時代のままでは、部下育成が追いつかず、不十分なものになってしまいます。
言葉にするから進化が加速する
一方、アメリカをはじめとする欧米では仕事の役割がはっきりしており、マニュアルの整備も進んでいます。言葉で仕事内容ができるかぎり表現・説明されていて、「何を」「どのように」するべきか言葉を使って明確に伝えられるのです。もちろん、言葉に頼るあまり、言葉で表現されない部分が漏れたり、マニュアルに書かれていることだけをやっていれば十分といった、手抜き仕事が起きる可能性もあります。とはいえ、言葉にして伝えることで誰でも最低限のレベルを早い時期に身に付けられることが保証されるとともに、仕事にさらなる改善・創造を起こすことが可能になるです。
下の図をご覧ください。これは個人・集団・組織の中で知識が伝えられ、さらには新しい知識が創造されていくプロセスを示したSECIモデルと呼ばれるもので、経営学者の野中郁次郎氏らによって開発されました。(参考:『知識創造企業』(野中郁次郎・竹内弘高著 梅本勝博訳 東洋経済新報社)
野中氏らは知識を、暗黙知と形式知という二つのタイプに分けました。暗黙知とは経験を中心にしたノウハウで、言葉で表現できない主観的・身体的な知識のこと。すなわち、「見て盗め!」型の知識です。一方、形式知とは、言葉などで表現できる客観的・理性的な知識、すなわちマニュアル型の知識を表します。
上の図は、暗黙知、形式知といった知識がどのように伝えられ、進化していくかを4種類のプロセスにわけて表現したものです。あなたや、あなたのチームに当てはめてみてください。どのプロセスを行っているでしょう?
この図をよく見ると、多くの日本企業でみられる「見て盗め!」型教育の弱さが見えてきます。
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