重心はあくまで自分。相手ではない
高野さんはハコミセラピーだけでなく、異文化のぶつかり合いからの創造・「カルチャーシナジー」にも取り組んでいる |
――「ラビングプレゼンス」とは、つまり相手のいいところを見つけようということですか?
高野:よく誤解されがちなのですが、それとは根本的に違う点があります。相手のいいところを見つけようとする際には、重心が相手にあります。相手にはいいところがあるはずだから、一所懸命それを見つけようとします。これは相手中心です。それだとどうしても無理が出てきてしまいます。
でも、この「ラビングプレゼンス」はあくまで重心が自分にあるのです。常に、人からはさまざまなエネルギーが流れ出しています。それは、「この人は優しい」とか「この人は暴力的」などといった固定的なものでもなく、常に変化し、その表情を変えていく……といった、むしろとてもダイナミックで流動的なプロセスです。そうした中から、その時々の自分に必要なものだけを受け取っていくわけです。いい意味で自分本位です。だから、無理がないのです。
――苦手な人を相手にも実践できますか?
高野:あまりに近しい人だといろいろな感情が出てきてしまって、慣れないうちはやりにくいかもしれません。でも、たとえ相手が苦手な人であっても実践可能です。
このとき、「嫌いだ」などの感情を否定しようとせず、(「気持ち」のレベルでは)その気持ちも受け止めた上で行なうことが重要です。「嫌いだけれども、(「存在」のレベルで)自分にとって何か栄養になるものがあるだろう」と思えば、何かを受け取ることはできます。
始めは、「とりあえずもらっておこう」程度の感覚でも十分です。すると、知らず知らずのうちに、(その人との関係に)何らかの変化が起こってくるのです。
――確かに無理がない自然な方法ですね
高野:これの面白いところは、相手を自分のためだけに利用しているわけではなく、最終的には、自分を満たしていると相手のためにもなっていくという点です。つまり、「自分のため」と「相手のため」のどちらかだけを選ぶのではなく、どちらも一緒に実現できる可能性を秘めているのです。「利己」と「利他」を統合する道、とも言えるかもしれません。
いつでもどこでも実践できる「ラビングプレゼンス」
――どうやって実践すればいいのでしょうか?
高野:自分がその気になれば、いつでもどこでも実践できます。職場でも、電車の中でも、自分の好きなときに、自分を満たそうと思えばいつでもできます。とはいえ、「存在」レベルでのコミュニケーションは普段やっていないですから、慣れないうちにはこれから説明するようなやり方で練習してもらえばいいでしょう。
――どんな練習方法ですか?
高野:例えば、職場にいるとしましょう。周りを見回して相手を一人決めます。そして、準備のために目を閉じます。そのときに次のような言葉を自分の中で繰り返してください。
「今は何かわからないけれど、このあと目を開けたら、○○さんを通じて、自分の中を深く満たしてくれる何かが入ってくれる。自分はそれを深いところで受け取って、自分を満たすことができる。」
心の準備ができたら、一瞬だけパッと目を開けてその相手を見ます。そして、すぐにパッと目を閉じます。そして、「今、何か入ってきたがどうだろう?」と自分に問いかけながら、その時の自分に栄養となるエネルギーと、それによって自分の中で起こってくる何らかの心地よい感覚を味わってみます。もし1回ではっきりしなかったら、何回でもやればいいです。
どんなエネルギーを受け取ったのかは別に気にしなくてもいいので、どんな良い変化が自分の中で起きているかをじっくり確かめてみてください。呼吸が落ち着いたとか、やさしい気持ちになってきたとか、いろいろな変化に気づくでしょう。
――一般のビジネスマンには難しい気もしますが、大丈夫でしょうか?
高野:実際に体験してみる前は、そう思われるかもしれません。しかし、ちょっとコツさえつかめば、ほとんどの方が簡単にできるものです。実際、私は企業のマネージャー向け研修などでもこの「ラビングプレゼンス」の演習を行っていますが、多くの方がそれほど抵抗もなく自然に行われています。
――そうですか。これがコミュニケーションの基本になると、お互いに無理なく、いい関係が創り出せそうですね。
高野:前回お話したように、言葉レベルや気持ちレベルだけではなく、存在レベルでのこういったコミュニケーションができれば、部下やチームメンバーとの会話が大きく好転しはじめます。意識の持ち方一つでできるので、ぜひ試してみてください。
――どうもありがとうございました。
2回にわたってお送りした高野雅司さんのインタビューはいかがだったでしょうか? ここ最近、コミュニケーションが注目され、さまざまなテクニックが広まっています。しかし、テクニックだけでは、コミュニケーションはうまくいかないことに多くの人が気づき始めています。
とはいっても、精神論だけでは具体的に何も変わりません。今回ご紹介したような、「言葉」・「気持ち」・「存在」の3つのレベルや「ラビングプレゼンス」といった、単なるテクニックでもない、精神論でもないフレームワークやスキルがますます求められています。ぜひ試してみてください!
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