部下と話はしているんだけれど……
部下との距離が縮まらないのはなぜ? |
10人の部下を抱えるセールスマネジャーのAさんは、納得いかないという表情を浮かべています。
これは、ある会社の管理職研修でのひとコマ。研修に先立って行われた部下からの上司評価の結果を見てのコメントです。
元気で人当たりのよさそうなAさん。部下とのコミュニケーションには自信を持っていたようですが、部下から厳しい評価を得て、かなり落ち込んでいます。
「何が問題なんでしょう?」とたずねるAさんに、私はこんな質問をしました。
「○○と□□。どちらの話を聴いていますか?」
思わず考え込んだAさん。しばらくの沈黙の後、ぽつりと言いました。
「もしかして、今まで部下の話を聴いていなかったのかもしれませんね」
休み明けの月曜日。部下が話しかけてきました……
「○○」「□□」が何かをお話する前に、部下とのあるワンシーンを思い浮かべてもらえますか? こんなシーンです。休み明けの月曜日。部下が楽しそうな顔をしてあなたに話しかけてきました。
「日曜日に映画を久しぶりに見たんですよ」
「この忙しいときに……」と上司のあなたは思うかもしれませんが、せっかくの部下とのコミュニケーションを取る機会です。「どんな映画を見たの?」とあなたが質問すると、部下はさらにうれしそうに話をします。
さあ、そこであなたにさっきの質問です。
「○○と□□。どちらの話を聴いていますか?」
「事柄」ではなく、「相手」に焦点を当てる
「相手と事柄。どちらの話を聴いていますか?」
もう少しわかりやすく言うと、
「部下と映画。どちらの話を聴いていますか?」
あなたはどちらですか?
「どんな映画だったんだろう?」と、映画という「事柄」に焦点を当てて聴いていましたか?もしくは、「この部下は映画をみて何に感動したんだろう?」と部下という「相手」に焦点を当てて聴いていましたか?
このちょっとした違いが、同じように部下と話をしていても、大きな違いを生みます。どちらが、部下との濃いコミュニケーションになるかはお分かりですよね。
ついつい「事柄」に行きがちなビジネスの世界
仕事でのコミュニケーションを振り返ってみると、そのほとんどが「事柄」に焦点を当てていることに気がつきます。そして、それは別に悪いことでもありません。当たり前のことです。何か大きな問題が発生したときに、まずは何が起こっているかを正確に把握しようとするでしょう。戦略、目標を立てるときにも、自社、競合、市場の情報を集めることが必要です。
でも、そこで大事なことが抜け落ちています。それが、「人」であり、「相手」です。確かに「事柄」も大事ですが、「相手」も大事にしないと、足元をすくわれることになります。
まずは、焦点が向いている方向に気づくこと
「相手」に焦点が向いていますか? |
多くの場合、「相手」から離れて「事柄」のほうに焦点が向いていきがちです。どちらがいい・悪いではありません。まずは、自分がどちらの話を聴いているのか? どちらに焦点を向けているのか? に気づくことです。それに気づけば、次にあなたがどちらに焦点を向けるかを選択することができます。
コーチングにおける基本は、「相手」、つまり「人」に焦点を当てることです。「相手」に焦点を当てるからこそ、部下の可能性を引き出したり、モチベーションをあげることができるわけです。
質問する、聴くというカタチであっても、「事柄」に焦点を当てて“事情聴取”“情報収集”をしたところで、部下との関係は深まらず、可能性も引き出せません。
ポイントは「あなたは?」「あなたにとって?」
それでは、簡単に「相手」に焦点を戻していく質問をご紹介しましょう。とてもシンプルです。どんな質問かというと…。「あなたは……?」「あなたにとって……?」
これだけです。私は「ユー・クエスチョン」(あなた・質問)と呼んでいますが、状況に応じて、「○○さんは?」「○○さんにとって?」というカタチで、「相手」に焦点を戻していく質問です。
「その映画について、あなたはどう思ったの?」
「その状況を、あなたはどうしたいの?」
「あなたにとって、その問題はどうなの?」
「あなたにとって、大事なことは何だろう?」
聴いているあなただけではなく、話している部下も、ついつい自分の周りを取り囲む状況や関わっている人のほうに話の焦点が移っていきます。そこに付き合って話を聴いていたら、いくら時間があっても足りません。
「あなたは……?」「あなたにとって……?」
こんなふうに、「相手」に焦点を常に戻しながら聴くことで、「相手」という「人」と深いコミュニケーションができるようになります。ぜひやってみてください。
そして、まず自分がどちらに焦点を当てて聴いているかに気づくことです。
「相手、事柄。どちらの話を聴いていますか?」
【参考文献】
■『コーチング・バイブル』(ローラ ウィットワース/フィル サンダール/ヘンリー キムジーハウス著 CTIジャパン訳 東洋経済新報社)
【関連サイト】
■「コーチングの基礎を学ぶ1:聴く・傾聴」
■「感動を呼ぶ名映画監督になろう!」