敷地が2種類以上の用途地域にまたがる場合
これまでみてきたとおり、たとえば第一種低層住居専用地域といっても決して住宅「専用」の地域ではありません。建築物の用途がある程度かぎられるとはいえ、住宅以外のものも建つのですから、いずれにしても周辺の状況をよく確認することが欠かせません。ちょうど用途地域の境目で、ひとつの敷地が2種類以上の用途地域にまたがる場合には、敷地に占める面積の割合が大きいほうの用途地域の内容が、その敷地全体に対して適用されることになります。
また、このようなときには売買契約締結前に宅地建物取引士が行なう重要事項説明で、敷地にかかる用途地域のすべてが説明されます。
ところが、売地や中古住宅では、測量を待たないと詳細な面積割合が分からないことがあり、実際に適用される用途地域がどちらなのか曖昧なままで説明を終えてしまうケースも少なからずあるでしょう。
住宅を建てる目的の敷地であれば、結果的に「どちらの用途地域でも建つ」ということで済む場合もあるでしょうが、店舗や事務所など住宅以外の建築物を建てる目的のときには、売買契約を締結する前に明確な結論を出させるようにしなければなりません。
売地の広告などでも、2つの用途地域を併記しているだけのケースがあります。
都市計画図を自分で確認することも必要
用途地域に関して問題が起きやすいのは、売買対象の敷地に第一種低層住居専用地域など住居系の用途地域が指定されていて、隣地や道路をはさんで向かい側、あるいは敷地にわりと近いところが異なる指定を受けている場合です。「売買対象の敷地の環境などに影響を及ぼすもの」については重要事項説明に加えることが原則だとはいえ、対象敷地にかからない用途地域の内容まで必ず説明されるとはかぎらず、実際に説明するかどうかはその不動産業者または宅地建物取引士次第といった面も否めません。
大都市部では、用途地域が複雑に入り組んで細かく指定され、第一種低層住居専用地域の隣が商業地域となる例もあるのです。
優れた住環境のつもりで第一種低層住居専用地域内の住宅を購入しても、(他の条例などによる規制がなければ)道路をはさんで向かい側にいきなり風俗店ができたり、一晩中ネオンが輝き続けたりすることだってあり得る話です。
住宅を購入する前には、できるかぎり自分の目で都市計画図などをみて、周辺の用途地域も確かめるようにしましょう。
都市計画図は各自治体の都市計画課などへ行けばみられる(役所の担当者が教えてくれます)ほか、地域の図書館などでも閲覧できます。また、最近ではインターネット上で公開する自治体も次第に増えているようです。
将来、お店を開くなら……
一戸建て住宅を購入し、リタイア後に趣味を生かしたお店を自宅で開いたり、弁護士や税理士など個人事務所をつくったりしようと考えるケースもあるでしょう。このようなとき、第一種低層住居専用地域だと難しいことも多いので注意が欠かせません。第一種低層住居専用地域内の自宅を改装して、店舗や事務所との兼用住宅にしようとする場合、店舗や事務所部分は延べ床面積の2分の1未満、かつ、50平方メートル以下のものしか認められないことになっています。
つまり、延べ床面積が100平方メートル以上の住宅であれば店舗や事務所部分は50平方メートルまで、延べ床面積が60平方メートルであれば30平方メートルまでの店舗や事務所しかできないことになります。
もちろん、建物のすべてを店舗や事務所にすることもできません。
第二種低層住居専用地域であれば(業種によりますが)150平方メートルまでの独立店舗などが認められるほか、他の用途地域ならそれ以上のものも可能です。
用途地域の雑学 ~用途地域の変遷~
大正8年に制定された旧「都市計画法」では、用途地域が住居地域、商業地域、準工業地域、工業地域の4種類だけでした。ただし、当初の適用地域は東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸の6大都市にかぎられ、地方都市などでは昭和の時代になってから適用されたケースが多いようです。
高度経済成長とともに旧「都市計画法」では不都合な面が多くなり、昭和43年に都市計画法が全面的に改められました。
この新「都市計画法」(昭和43年6月15日公布、昭和44年6月14日施行)では、用途地域が第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域の8種類に増え、昭和48年頃までに切り替えが完了したようです。
さらに、平成4年(1992年)の都市計画法一部改正(平成4年6月26日公布、平成5年6月25日施行)により現在の12種類へと細分化されています。改正法の施行後3年以内に切り替えることが求められ、遅くとも平成8年(1996年)6月24日までに現在の用途地域へ変更されました。
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