「生」~ひとりのゲイの生き様が与えた「希望」
政治に関わる活動家って「カタくてマジメでとっつきにくい人」みたいなイメージがあると思います。が、『ミルク』を観ると、イケメンに惚れたり、セックスしたり、冗談を言って笑ったり、泣いたりするハーヴェイの姿が、「遠い世界の人」じゃなく「愛すべき友達」に見えてくると思います。
僕らは「愛する人と幸せに生きていきたい」という、ごく当たり前の願いを胸に抱いて生きています。が、男同士であるがゆえに「異常だ」とか「罪だ」とレッテルを貼られ、愛が禁じられ、生命を奪われてきました。ハーヴェイの時代はそういう厳しい現実が「幸せ」の前に立ちはだかっていました。
どこにでもいるような一人のゲイ、ハーヴェイが、市政執行委員をめざそうとしたのは、「僕と彼との幸せ」を支える大前提が脅かされていることに気づき、それを変えていけると信じ、行動を起こす勇気を持っていたからです。
ハーヴェイの姿は、たとえば、このサイトができるずっと前からゲイコミュニティに呼びかけてきた人たち、パレードのスタッフとしてがんばってきた人たち、HIVの予防やケアをやってきた人たち、2年前の選挙を応援してくれた人たちと地続きです。「僕と彼との幸せ」につながるような、広い意味で「愛」や「命」に関わることに取り組んできたのです。
ただ、ハーヴェイは決して「神」ではありませんから、短所もありました。ちょっとエキセントリックな行動をすることもありましたし、選挙に勝って力を得るや、ちょっと天狗になってしまったりもします。
その辺りも隠さず、オープンに描いているところがイイ、と思いました。
ショーン・ペンが、さすがアカデミー主演男優賞とうならせるような、見事な演技を見せてくれています。ノンケさんがわざと「オカマ」っぽい演技をするありがちなパターンとは雲泥の差があります。魂が入ってました。それだけハーヴェイ・ミルクに対するリスペクトがあったからこそ、オスカー受賞スピーチで「同性婚に反対票を入れた人、恥を知りなさい」と言えたんだと思います。
ショーン・ペンのおかげでハーヴェイ・ミルクが現代によみがえりました |