「桜前線」の観測方法や「開花宣言」の判断基準
春になると毎年気になる桜の開花。よく「桜前線」の報道を見聞きしますが、そもそも桜前線って何? 桜の開花「開花宣言」ってどうやって決めるの? 今回はそんな素朴な疑問を解決します。まさに天気の前線図のような桜前線(資料提供:気象庁「さくらの開花予想の等期日線図」) |
「桜前線」「桜前線北上」の意味は?
よく「桜前線が北上」というフレーズを使いますが、これは、日本列島を南から北へと桜の開花が進んでいくからです。
例年1月中に沖縄・奄美地方でヒカンザクラが開花し、3月後半に西日本と東日本の太平洋側でソメイヨシノが開花して、4月の初め頃に満開となります。その後、桜前線は北上していき、4月末には東北地方北部でも開花。5月に入って北海道でもソメイヨシノやエゾヤマザクラ、チシマザクラなどが開花し、5月下旬に北海道東部でも開花して、桜前線も終わりとなります。
桜前線って気象庁が発表するの?
桜前線といえば気象庁が発表するものと思われがちですが、実はちょっと違います。そもそも、気象庁では「桜前線」という用語は使わず「さくらの開花日の等期日線」といいます。気象庁では生き物の様子を観測する「生物年季観測」を毎年行い、気候や季節などの推移を把握しているのですが、サクラもそのひとつです。明治末から各地の気象台で開始され、戦後発表されるようになってからメディアなどで「桜前線」と呼ばれるようになり、定着していったのです。ちなみに、2021年から「生物年季観測」の対象が大幅に縮小され、ウメ、サクラ、アジサイ、ススキ、イチョウ、カエデの6種類に限定されます。
また、報道発表資料として提供されているのは「さくらの開花予想の等期日線」で、実際の開花日ではなく開花予想なんですね。気象庁では、気温のデータと過去の開花日をもとにコンピューターを使って開花予想を出し、毎年3月初めに第1回の「さくらの開花予想」を発表して、以後1週間おきに4月下旬の第8回まで開花予想の発表を行っています。予想だけでなく開花日や満開日も観測していますが、その年の開花日に関しては、気象庁のホームページにおいても日付のみの発表となっています。
最近は、民間企業や一般の方のネットワークで独自の桜前線を調査・発表するところもあり、判断材料や基準の違いから桜前線も多様化しています。
観測する桜は? 基本的にはソメイヨシノが標本木
では一体どうやって桜を観測しているのでしょう? まさか、ご近所の桜を毎日眺めているの?……はい、そのまさかなんです。気象庁では、全国各地約100カ所の気象台や測定所で観測しています。基本的には構内にある標本木を観測しますが、構内に標本木がないときは、付近のものを標本木に指定しています。
< 標本木の例 >
- 東京……靖国神社内の桜
- 京都……二条城内の桜
- 大阪……大阪城公園内の桜
- 神戸……神戸海洋気象台にある桜でしたが阪神淡路大震災後は神戸市立王子動物園の桜に変更
開花日と満開日の判断基準は?
主な観測内容は開花日と満開日ですが、次のような基準があります。【 開花日 】標本木の桜に、5~6輪以上の花が咲いた日
【 満開日 】その標本木の桜で、8割以上のつぼみが開いた日
こうしてみると、開花日は本当にちらほら咲いているだけですし、満開といってもまだ1~2割はつぼみがある状態なんですね。
開花日の判断基準を満たすと「開花宣言」が出るの?
気象庁では標本木を観測員が実際に見て判断しています。目を凝らして花数を数え、5~6輪咲いていると「開花!」と言っている様子が報道されたりしますね。これが俗にいう開花宣言で、開花日と判断されると「○○で開花宣言が出されました」などと報道されるわけです。でも、開花宣言が出されていないのに近所の桜が満開だったり、開花宣言が出されていても全然咲いていないこともありますね。どうしてでしょう? それは、こんな事情があるからです。
なぜ、桜が満開なのに開花宣言が出ないの?
気象庁はあくまでも各地域ごとに指定された標本木(1本または数本。例えば、靖国神社の標本木は3本で、このうち2本が基準に達すれば、それが東京の開花状況となる)で判断するので、その地域の実状と必ずしも合致するわけではありません。また、ソメイヨシノよりも早咲きの品種がたくさんあり、気象庁から開花宣言は出されていないが(他の)桜は満開ということもよくあります。そもそも、気象庁の観測は、季節の遅れ進みや気候の違いなど総合的な気象状況の推移を把握するためのものですから、ニーズが違うのです。
一方、民間ではそれぞれ独自の観測方法をとっており、ネットなどを通じてきめ細かな開花情報を発信しています。
※参考:気象庁
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