父の日に2万円遣う友人
シェリー樽貯蔵による甘いドライフルーツや香ばしいチョコレートの香りが特長。アメリカでも人気がある。 |
友人の父はこの春、長年勤め上げた会社をリタイアした。最後は取締役まで上った人だ。友人はその時、出張が多く満足に慰労をしてあげられなかった。遅ればせながら父の日に、その埋め合わせをすることにしたという。
それは殊勝な心がけ、と思いつつもちっともセンシティブじゃない応答をわたしはしてしまった。
「ついでにもう2万円だして、白州18年も贈っちゃえよ」
「いや、それは喜びません。絵に描いたような苦労人ですから。贅沢だと、逆に叱られます。山崎18年ですら、飲んでくれるか」
人はみかけによらない。友人のことをいいとこの坊ちゃんと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。厳格過ぎる父親に反抗しながら、父をライバルとして彼が生きていることを知った。
退職後に知った父親の秘密
父親という人は近畿地方の山の中の生まれで、大学で東京に出てきた。訳あって母(友人にとっての祖母)とその母の兄、つまり伯父から仕送りを得、自らもアルバイトをしながら学費を稼いで卒業した苦労人であるという。祖母、伯父への恩を一瞬ですら忘れることなく生きてきた人だ、と友人は言う。その証拠に大学卒業後、就職してから退職するこの春まで変わることなく田舎の祖母と伯父に、感謝の送金をつづけていた。彼らが断っても、父親は止めなかった。それが幾度か親戚の人々の援助になった。先月のゴールデンウィーク、その田舎で親戚の結婚式があり、父親と母親はもちろん家族連れで彼はお祝いに出かけ、式後の身内だけの宴でそれを知る。
90歳になる伯父さんが、父親のいままでの送金を讃える話を皆の前ですると、父親は怒った。友人の彼のほうは、父親が課長、部長と出世してもちっとも裕福さを感じられなかった子供の頃の訳がわかった。自分の母親の苦労も知った。そして父のウイスキーを思った。
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