今年のプレゼントは何
毎年、父の日にはウイスキーを贈るという三十代半ばの女性の友人がいる。仕事仲間の彼女は「今年は何がいいのかな」と、必ず私にアドバイスを求める。それが十年以上もつづき、その親孝行ぶりにいつも感動してしまう。ただアドバイスに困るのだ。ウイスキー好きの彼女の父親は名品と呼ばれるボトルは飲み尽くしている。高価なものを贈ると「これは特別な時にみんなで飲もう」と言って封を開けてもらえない。レアものを贈ると「ありがたく頂戴したが、あの味ならスタンダードなあれのほうが好きだな」とさほど興味を示さない。
そういう人に対して毎年変化を持たせるのは大変だ。でも親孝行な友人のために、私は一緒に考える。そして今年、なんとかウイスキーを決めることができた。なかなかいい思いつきだと自画自賛している。
さて、そのウイスキーとは何か、とお伝えする前に、もう少し彼女の話をさせていただく。
娘よりもウイスキー
彼女が小学生の頃。おそらく25年ぐらい前の話だ。父親と近所に買い物に出かけた。帰りに彼女は、父親の買った『角瓶』を持たせられた。父の大好きな『角瓶』だとわかっていたから、ボトルの入った紙袋を両手で大事に抱えながら歩く。
自宅のあるマンションに帰り着く。彼女はいまも歩いていてよくつまずくのだが、それは子供の頃からであったらしい。マンションの玄関前の階段でつまずいてしまう。彼女は転んだが、『角瓶』は落としてはならぬと必死に抱えた。その時の父親の反応が面白い。
ロングセラーをつづける角瓶ならではの思い出も、人それぞれ |
転んだ彼女の体を気遣うことはなかった。なんと「いま、コツンって音がしたぞ」と『角瓶』の心配をしたという。彼女は子供ながらに、私よりウイスキーのほうが大切なのか、と頭にきた。
そして自宅のリビングに到着。彼女が『角瓶』のボトルネックをつかんで紙袋から引き出そうとした瞬間、ネックから下の部分がズドンと床に落ち、割れたボトルの破片とウイスキーが飛び散った。
家族中がその音に驚いてリビングに集まる。その時の父親の反応がいい。
家族を前にして「さっき、コツンって音がしたからな。あー、あー、ウイスキーが」と言って、ボトルの破片が刺さったりしていないか、というような彼女への気遣いはまったくなかった。「なんてひどい父親だ、とその時は思いましたね」と彼女は語る。
そんな彼女は大人になって金を稼ぐようになり、毎年、父の日にはウイスキーを贈りつづける。私はこの話がとても好きだ。なんかいいね。
では次のページで、彼女がその父親に贈るウイスキーとは何かを教える。皆さんの参考になればと思う。(次ページにつづく)