ひと口の花畑
一皿目のデザートは、主菜の後の口直しを兼ねた軽めの一品である。『苺とビーツのサラダ仕立て カモミール風味のメレンゲの砂とライチのソルベを添えて』。料理名は聞いていたが、料理が運ばれてきて驚いた。
金魚鉢のような、ボール状の器。これは和風甘味なのか? 山本シェフはとうとう、フランス料理をはみ出してしまったのか?――「スプーンに載っている『砂』はメレンゲを砕いてカモミールを加えたものです。サラダにふりかけて召し上がって下さい」と告げられ、恐る恐る食べてみる。
イチゴをバジルのシロップとサクランボの蒸留酒で和え、ビーツ(赤カブ)は苺のリキュールなどで漬け込み、食用花、ビーツの若葉などと共に盛り付け、ソルベ(シャーベット)を乗せ、器の縁にバラとイチゴの香りのマカロンを添える。
ビーツには甘味と真っ赤な色があり、赤い果物のような風味がある。マカロンやマリネしたイチゴとは相性がいい。「砂」をふりかけて混ぜ、ひとくち食べてみよう。この料理もまた未体験ゾーンだが――しゃりしゃりと咀嚼して味わうと――これはなかなか「いける味」だと判る。あっという間にきれいに食べ終わるが、気付けば主菜の後の口中は清々しさを取り戻し、味は断じて「和風」ではなかった。これはシェフの悪戯心が生んだ、一見和風を装ったサプライズに違いない。
フィナーレのデザートは『コーヒー風味のショコラ“レコルタ”のガナッシュとマスカルポーネのシガー』。フランス料理店で供されるチョコレートのデザートといえば、スフレ、ムース、グラス(アイスクリーム)、伝統的なガトー・ショコラなどが定番。常時提供されるケースも多い。しかし山本シェフは「それでは『怠惰』。私は、この4つ以外で本格的なチョコレートのデザートに仕立てるのがポリシー」という。
チョコレートにクリームなどを加えたガナッシュをしっとりした生地の上に流し込んで固めたのが左に見える艶やかなガトーで、となりの葉巻状のものはコーヒー風味のぱりぱりした薄焼き生地にマスカルポーネのグラスを詰め、コーヒーの泡とカカオをあしらってある。とろりと口どけがよくコクのあるガトーに、サクサクひんやりと軽快なシガー。完成度が高いデザートに、思わずお替りを頼みそうになった。
この店で食事をして、ひとつ考えたことがある。それは――