「グリーンカレー」の秘密
かぐわしいルーサンヌを味わいつつ迎える、主菜の登場。仔羊のローストといえばフランス料理の定番だが、ここでも山本シェフの荒業が見られる。カレーは上等なワインの風味にある精妙なバランスを崩すものだが、タイの辛いカレーで有名なグリーンカレーペーストをソースにした皿である。この皿を前にして誰もが思うのは「なぜフランス料理でタイ風? 辛そうだけど大丈夫かな?」とか、そんなことだろう。
仔羊の背肉から骨を外して円筒形に成形し、真空調理(耐熱性の袋に入れて空気を抜き一定の温度で温める)の後オーブンで火を通す。グリーンカレーのソースとともに盛り付けた横に添えるのは、ココナッツミルクで煮てグリーンピースとミントを加えた長粒種のパラパラした米である。
じつはここで使うグリーンカレーペーストは、既製品ではない。山本シェフが自らスパイスなどを調合して作り、香りはグリーンカレーらしく仕上げているが辛味は全くないのだ。最初は恐る恐る食べていたのだが、いざ辛味がないとなると、タイ風のようで、これはタイ風ではない。不思議な既視感と共に、まずはその香りのよさに驚き、次に仔羊との相性の良さに驚き、フランス料理として成り立っていることに驚く。
そしてこれが、ワインと合うのである。春藤氏のおすすめは仔羊に合わせる定番のメドックワインではなく、「ローヌ地方で、いいワインがあるんです」という。ヴァケイラスという地域の、ドメーヌ・ド・ラ・シャルボニエールが造る赤だ。柔かい風味のグルナッシュ種6割に濃いシラー種を4割加えており、口当たりは絹のようにスムーズ。赤身肉やプラムのような風味があり、全体に柔かくなじんでいる。仔羊の赤味の味わいやカレーのスパイシーな香りに、少しも違和感なくなじみながらしっかり受け止めてくれる。
銀盆に並べられた、熟されたチーズの数々 |