中国茶/中国茶関連情報

老人茶を見直す

台湾功工夫茶を老人茶などと呼びますが、老人茶にはもっと深い意味があるのです。

執筆者:平田 公一

老人茶とは


たまにはのんびりと茶船や茶壷を使って、ゆっくりじっくりとお茶を味わってみよかなと思い、すっかり仕舞いこんでしまった中国茶の茶器セットを取り出してみました。

やや火入れの強い阿里山高山茶。たしか一昨年のお茶を、しっかりと梱包して保存していたものでした。

湯を注ぎ、熱々のお茶を小さな蛋杯に注ぎ、のんびりとすすっていると、なんだか自分がすっかり老人になってしまったような気がしてくるから不思議です。

そういえば、最近ではあまり聞くことのなくなった「老人茶」という言葉を、ふと思いだしました。

私が中国茶に興味を持ち始めた1990年代前半には、台湾などでもこの老人茶という言葉がまだ生き残っていた気がします。

老人茶という言葉自体は、野外や自宅で功夫茶でお茶を入れて愉しむことだと説明されることもあり、今でも、欧米で発行された茶について書かれた本の中には、「伝統的茶藝」として、工夫茶が「老人茶」として紹介されたりしているので、「老人茶」という言葉は、実はまだ使われている言葉なのかもしれません。

しかし、私が教わった「老人茶」とは、いわゆる、時間の経った、そしてしっかりと火入れが施された烏龍茶をじっくりと功夫茶式に入れて飲むやり方でした。

台湾にそのやり方が伝わった早い時期に、「老人の飲み方」というような意味合いで「工夫茶」を飲むことそのものが「老人茶」と言われたのだそうですが、本当の意味合いでの老人茶は、まさに老人が茶を楽しむやり方のことを意味します。

例えば、凍頂烏龍茶とか木柵烏龍茶を何年も寝かせて、そして丁寧に火入れをして水分を飛ばせた陳年茶を、朝から晩まで、それこそリタイアメントした老人が持て余す時間を、ゆっくりと茶館に自帯茶[口十](茶葉を持参)して、鳥かごの鳥を眺めながらちびちびと味わって飲むのが、いわゆる老人茶であるわけです。

最近では、日本でもすっかり知られるようになった陳年茶ですが、十数年前は見向きもされず、日本にも入ってきていませんでした。

だから、私が初めて陳年茶を飲んだのは、日本でも台湾でもなく、香港の茶荘のカウンターででした。

その茶荘の老師いわく、「この老人茶(lao ren cha (”old folk’s tea”)は、凄く強いお茶のように感じるかもしれないが、老人になると、そんなに強い茶を体が受け付けなくなるので、いわゆる、漢方薬みたいな寝かせた茶がいいんだよ」といって飲ませてもらったものでした。

実際、淹れてもらった茶汁はかなり濃い色。そして口にしてみると味もかなりはっきりとした強さのある、香りよりも味の立つ烏龍茶でした。

正直いって、このお茶を飲んだときは、「この茶、強いじゃないか?!」と思ったものですが、でもその後、口のなかですっと解けて行くような、口の中に残った茶は主張をしない、優しいお茶に変わっていきました。

飲んだ口当たりは確かに味の濃さがありますが、落ち着いた、そしてふっとはかなげに消えて行く余韻は、作られたばかりの茶とはまるで違う、優しいお茶なのでした。

「なるほど、老師がいっているのはこのことだったんだね」とすぐに解った気がしました。

さらに老師は、この陳年茶に乾燥蜜柑の皮(すなわち陳皮)をいれてました。これはもう漢方薬?と思ってもいいのではないかというような見た目でありました。

こんな陳年茶を茶壺や茶船を使ってじっくりと丁寧に淹れて、小さな蛋杯でゆっくりと少量飲む。まさに、それが老人茶なのです。

その当時は、私もまだまだ若かったので、正直言うと、そんなお茶の飲み方が、興味こそあれ、自分にあっているとは全く思っていませんでした。
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