『極める紫砂茶壺』
この夏、出版社のグリーンキャットから茶壺の本が出版されました。著者はお茶について興味を持った人には、とても参考になる台湾茶の本、『極める台湾茶』を手がけた池上麻由子さん。
紫砂茶壷、中国茶に興味を持った人が誰でも知っているこの中国茶を淹れるための茶具については、しかしながら日本では専門書は少なく、どちらかというと「美術品」扱いされてきた感がありました。
もちろん日本でも、香港で出版された顧景舟氏の書籍を平凡社が日本語版として出版していますし(『宜興紫砂茶器名品集成』という非常に高価な本)、『中国陶瓷全集23巻 宜興紫砂』(上海人民美術出版社、美乃美)という本がかつて出版されてはいました。
その他には、煎茶道方面の書籍や、今では入手が難しい美術館、博物館の展示の際に作成された解説集があるだけで、茶壺に興味を持った場合は、香港、台湾、中国で出版された本を捲るしかありませんでした。
そんな中、新しく出版されたこの『極める紫砂茶壺』は、茶壺好きならず、中国茶フリークには待望の一冊と言えるでしょう。
早速内容をご紹介しましょう。この本は「新茗壺図録(鑑賞編)」、「学紫砂茶壺(知識編)」、「選好茶壺(実用編)」の第三編から構成されています。
新茗壺図録
二十三の茶壺に触れる
まず、二十三種類の茶壺の図版を並べて、それを鑑賞しながら、紫砂の素材の地肌に触れ、そして愛でることからスタートしています。
ここに選ばれた二十三の茶壷は、デザインが絶妙で工芸技術が優れていること、作者の作品に対する境地が深く、鑑賞の楽しみを満たしてくれること、そして美味しく淹れるための機能性に優れ、長く愛用に耐えうるものという3つの条件で選ばれています。
そうして選ばれた茶壷は、供春(きょうしゅん)によって作り出され、時大彬(じだいひん)などによって引き継がれていた「龍蛋壺」、壺身の形状がなしに似ていることから梨式と言われる「梨式水平壺」、俗に孟臣壺と呼ばれ、長く愛用されている「朱泥水平壺」、明代から作成されてきた四角い形状の「四方鼓腹壺」、清代から作り次がれてきた球形の「綴(手偏)球壺」、工夫茶に欠かせない定番者壺の一つ「矮潘壺」、清代の名匠陳鳴遠(ちんめいえん)が壺名を刻んだことで有名な南瓜型の「東陵瓜壺」、清代の茶壺プロデューサーとして有名な陳曼生設計の「半瓜壺」、瓢箪を模した曼生十八式の一つ「石瓢壺」などの、定番茶壺から、清代の名匠邵大亨(しょうだいこう)が創作し黄玉麟(こうぎょくりん)が変化させた「魚化龍壺」、竹をモチーフに作られた「竹段壺」、餅手が上に長く立ち上がっている「東坡提梁壺」、鐘型の「漢鐘壺」など装飾のほどこされたものなど、紫砂茶壺を代表する茶壷たちです。
これらの茶壺は、唐朝霞率いる「唐人陶藝」の職人によって作成され、それらの地肌の具合がとても分かるような写真が様々な方向から撮影され掲載されています。
これら二十三の茶壺について、写真だけではなく、それぞれの由来や魅力が池上さんの言葉で解説されています。ここのパートだけ写真を見ながら池上さんの解説を読むだけでも、紫砂茶壺の世界の一端を垣間見られる、本書のメイン部分です。