フレンチ/フレンチ関連情報

ル・マスカレ(ノルマンディー)(4ページ目)

津波のように押し寄せるフィリップの斬新なオリエンタルフレンチ。寄り添うマダムのナディアのサービスに酔いしれ、フランス料理の深遠な世界にただひたすら身を委ねる。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

繰り広げられる美食の数々

鯖をフランスで食べるとは思わなかった。ポワレした鯖にツナと蛸が添えられ、上には甘みをつけた地場のニンジンのピュレが乗る。スープまでしっかりいただくが、まだまだ食欲にはスイッチが入ったままだ。そのまま次の魚料理を続けよう。

キャビオ(タラ)の登場だ。それもかなりフレッシュで、中身は見事なまでのミキュイ(半生)。キャビオは鮮度の落ちがとても早い魚なのでほとんどはしっかり火を入れて食べることが多い。これは近くの港で今朝上がったものとのことだから、鮮度は申し分ないのだろう。そうだ、ここはノルマンディー。ワインはないが周りは海ばかりの海産物の宝庫ではないか。

そのときナディアは面白いものを持ってきた。円柱型の、モロッコのなんだけっけ?これ。「これをね、すーっと吸いながらキャビオを食べてみて」と。アニスの香りを吸い込み、そしてキャビオ、ガルニのナスとズッキーニのピューレを絡め着くに運ぶと!

香りをも料理に仕上げるナディアのマジックが炸裂だ。

2008年もののシードルとともに私の味覚はふわふわと浮遊しだした。

日常から離れてノルマンディーの田舎町に滞在しているという気持ちの高ぶりがあったとしても、料理のクオリティに加え「香り」まで作り出してしまうその発想がものすごく刺激的に感じたことは間違いない。

見た目はごく普通なだけに驚きは深い。次は口直しの小さなスープ第2弾。入れ物は失念してしまったが、中身はローズマリー、ミント、オレンジ、コリアンダー、レモン、ローリエを煮詰めた、やや甘さを感じる不思議なスープだ。

やっとメインの肉料理が運ばれる。仔鳩のローストはまるでジビエかと思わせるような滋味深い味。特に小さな足の骨周りの肉はたまらない。これまでのクリエイティブな料理を圧倒する伝統的なフランス料理のクオリティに、やっぱりメインディッシュは肉でないといけないと再確認。

チーズはカマンベールをカルヴァドスに漬け込んだものとコンテ地方のグレーのラインの入ったハードタイプのものをいただく。

デザートくらいごくごく普通のもので勘弁してよ、と思うのだがナディアはそれを許さない。目の前で瞬間冷凍されたクレームダンジュを取り出し、そこに暖かなショコラソースをかけてスープ仕立てに仕上げる。さらに温かなミントウォーターにドライアイスを載せてテーブル一面を白いスモークで覆い、あっけに取られる私に「雲が引けたらこれでミント水で口直しをどうぞ」とくる。

いや、参った。

時差の関係なのかところどころで睡魔が襲ってくるが料理が出ると一気に目が覚め、さっきまで食欲がどうしたこうしたといっていたことすら何なの?というくらい、今度は満腹感になかなかたどり着けない。

夜も10時半位になるとやっと帳が下りてくる。途中雨が降ったかと思うと晴れ間が続き、気がつくと分厚い雲が急ぎ足で流れていく。

マスカレの料理は素材を伝統的な調理法で仕込みつつ、スパイスをバランスよく取り入れて独自の味わい感を繰り広げる。これはシェフとマダムの二人三脚の賜物だろう。

食後はレセプションカウンターでJapanTime。pcにこれまで旅した日本の風景や人を100枚ほどにまとめスライドショーにしたものを見ながら、スタッフを入れてしばしご歓談。彼らは予想通り、日本の伝統文化に興味がある。特に神事や建造物、懐石料理、そして人。
マスカレの夜は実に心地よく、気持ちがいい。

世界遺産モンサンミシェル観光の後は少し足を伸ばして、フィリップの料理、マダムのサービスと共にノルマンディーの風をぜひ感じていただきたいと思う。

ル・マスカレ(ノルマンディー地方ブランヴィル)
パリ・サンラザール駅から急行でカンまで2時間。急行に乗り換えて1時間10分でCoutancesまで。そこからタクシーで20分ほど。

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