フレンチ/フレンチ関連情報

ル・マスカレ(ノルマンディー)

津波のように押し寄せるフィリップの斬新なオリエンタルフレンチ。寄り添うマダムのナディアのサービスに酔いしれ、フランス料理の深遠な世界にただひたすら身を委ねる。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

ノルマンディーへ

レンヌからノルマンディーはカン行きの急行列車の中にいる。そろそろポントルソン・モンサンミシェル駅だ。あった、駅から見える反対側のあのホテルに泊まったんだ。あれは1985年の晩秋。パリからモンサンミシェルに一番近いポントルソン駅に着いたのは夜遅く。駅に降り立ったのは3人の男と1人の女性。みんなばらばらにホテルを探すそぶりを見せたそのときに、シカゴから来たアメリカ人が「みんなで泊まると安くなるぜ。あそこのホテルに俺が交渉するからみんなで行かないか」
ホテル
ポントルソン駅前のホテル
なかなか仕切りが上手いやつで、ホテルと交渉し、1部屋に4人で泊まることに。酒買って来い!とばかりに誰かが近くの酒屋に行き、ビールとワインを。4人で飲みながら夜中まで話し込んだのがもう25年も前だ。
SNCF
電車もモダンで快適だ

海の彼方に浮かぶ要塞のような修道院は遠くから眺めてこそ、震え上がるほどの感動を呼ぶ。帰り際、どんどん離れていく海と陸に跨る修道院は神秘的ですらあった。今では世界遺産に指定され、変わらず多くの観光客を引き寄せる、まさにノルマンディーのマグネット。

急行電車はとっくにポントルソン駅を出て、ノルマンディーの内陸部に突き進む。私が向うのはクータンス。そのあと車で20分ほど走るとブランヴィルという海沿いの町に行き着く。今夜の宿は「ル・マスカレ」。津波を意味するレストランは2009年ミシュランで星を一つ獲得している。
マスカレ
車通りの少ない静かな町だ

まずはホームページをぜひご覧いただきたい。冒頭から日本語のテレビ番組がスタートだ。

シェフのフィリップとマダムに初めて会ったのは彼らがフードフランスで始めて日本に来た2007年のことだ。そのときの料理も非常に魚介類を多用したクリエイティブで印象に残るものだった。今度は私がアウエーで彼の料理を楽しむ番だ。

20分ほどしてオーナーシェフのフィリップが軽トラワゴンで迎えに来てくれる。お互いたどたどしい英語でなんとか会話のキャッチボールを始める。彼のオーヴェルジュまで10キロほどだが、途中、海を見に行こうと言い出した。海岸線はパノラマのようだぞ、と一気にまくし立てる。その海岸線は地平線がまさにパノラマのようにつながっていた。
海岸線
果てしなく拡がる地平線

遠くにはモンサンミシェルのある位置がわかる。特に何もないのだが車だけがやたらたくさん駐車しており、みんなどこに言っているのだろうとも行きや、潮干狩りに来ているのだそうだ。エスカロップがたくさん獲れるらしい。ブランヴィルの街は海沿いに小さく固まっている。彼の車が通るのを見かけた友人たちが手を振る。街はバカンスの客で賑わうが、洗練された南仏的雰囲気より庶民的なところになぜかほっとしたりする。
フィリップ&ナディア
本当に仲のいいご夫婦だ

フィリップは初めて訪れた日本の印象を強烈だったと話す。築地の賑わい、街の人多さ、目にするもの多くは相当びっくりだったようだ。日本の素材のクオリティの高さを知ると同時に多くの日本人に自分の料理を受け入れてもらい、非常にいい刺激になったと話す。
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