マラソンが速い人のフォームには共通要素がある

マラソンのフォームの基本

遠目にみても、フォームだけで誰かがわかる

ランニングフォームというものは、どのランナーにとっても目的と動かし方はほぼ同一(足を交互に前に出し、腕は足と反対方向に同一のリズムで振る)なのに、とても個性的です。同じような体格で同じスピードで走っていても、遠目にも誰とわかるそれぞれのフォームを持っているランナーがたくさんいます。

これはエリートランナー、市民ランナー問わず言えることのようです。たとえ、身長や体重が同じでも、骨格や筋肉の付き方は人それぞれですから、違っていて当たり前といえないこともないのですが、そんな中でも速い人のフォームには共通したものが多くあります。その共通要素だけは、長く速く走るために必須の要素だと言えるでしょう。

サブスリーを目指すレベルのランナーが、トップレベルの選手と同じように体を動かせるとは限りません。レベルが違えば必須要素も異なってくることは間違いないのですが、それは動きのスピード、大きさが異なるだけであり、基本的な方向はトップレベルの選手の動きの基本要素を身につけることを目指すべきです。では、その基本要素とは何でしょうか?
 

速い人は基本的に軸がぶれない

まず、鍛えられたランナーに共通するフォームの最大のポイントは、体の軸が真っ直ぐでぶれが少ないランナーが「多い」という点にあります。「すべて」ではなく「多い」と言わなければならないのは、例外的なランナーも結構いるからです。

有名で特徴的なランナーに、女子のマラソン世界最高記録を持っているポーラ・ラドクリフ選手(英国)があげられます。あの上半身を前後に振りながら走るフォームは、彼女以外にみかけません。しかしながら最速!このパラドックス(本人はパラドックスでも何でもないとお思いでしょうが)の答えは、彼女の体の中にあるとしか言いようがありません。

しかし、自然界にあって駆け足が得意な動物は、みな彼女のように走っています。すなわち体を前後に振るのです。正確に言うと、体をスプリングのように縮ませ、伸びるときの反動で前方に飛び出すといったシステムです。この動物たちが、人間のように足の付け根を支点にして足を振り出すのは歩くときだけです。
 

「変則」を可能にしているのは並外れた筋肉

ラドクリフ選手といえども、歩くときには上半身を振りはしないでしょう。彼女は、腕の振りに加えて上半身を振ることによって反動をつけてストライドを広げることで、呼吸をスムーズにしているものと思われます。動物の動きからすると納得できないこともありませんが、これは誰にも真似ができるフォームではなさそうです。ラドクリフ選手のお腹の筋肉を見てもわかるように、上半身を前後に振り続けるためには、並外れた腹筋と背筋が必要であろうと思われます。
 

サブスリー達成の妨げにならないクセも

私が見て変則フォームと思える有名ランナーに、君原健二選手(メキシコ五輪で銀メダル)、谷口浩美選手(世界陸上東京優勝)というそうそうたる方がいます。

この方々に共通しているのは、首をかしげたフォームで走り続けるということです。宋茂、猛選手もやや「首かしげ型」でした。我々が首を傾けて走ると真っ直ぐに走りにくいだけでなく、左右の重心がアンバランスになるので、頸骨から腰椎にかけてのいわゆる背骨が左右に湾曲してしまいます。これは、疲労が左右アンバランスに生じ、故障の原因ともなりますから、理にかなったフォームとはいえません。

しかし皆、並外れた練習をして国際的にもトップレベルの活躍をされています。首を傾けることは、速く走るためのフォームではなく、単に「幼い頃からの慣れ」と考えるしかないようですが、逆にいえば、その程度のフォームのくせはサブスリー達成の妨げにはならない要素だということができるのかもしれません。
 

姿勢が猫背だと歩幅と呼吸と体幹の障害に

私は子どもの頃から猫背で、走り始めた頃のフォームを見るとたいへん格好の悪いフォームをしていました。どうもそれはまずいと思うようになって矯正しようとしたのですが、なかなか直らなかった覚えがあります。今でも疲れてくると背中が丸まり、頭が前に出てきます。これは、エリートランナーにはまず見られないフォームですが、平均以上のレベルに達した市民ランナーにも見かけることがあるフォームです。

このフォームがいけないのは、腰がひけて歩幅が広がらず、骨盤が寝てしまい、スムーズに足が振れない(腿~膝は上がるが、体を押し出す後ろ方向へ力が入らない。極端に言うと腿上げ運動に近づく)という「体幹」に関係する問題がありますが、もうひとつ重要な問題に、呼吸を妨げるということがあります。
 

猫背だと気道やお腹を圧迫する

猫背になると気道が湾曲し、スムーズな呼吸がしにくくなります。猫背の上に首も前に突き出した姿勢だと、呼吸をするにはさらに障害になります。また、体をかがめるとお腹を圧迫するために、腹式呼吸がしにくくなります。肺を膨らませたときには横隔膜が下がるので、その分腹も膨らませますが、猫背になっているとお腹を膨らませにくいので、肺も大きく膨らまない、すなわち吸気が十分に行えないことになります。

もし呼吸を楽にしたいなら、吸うときには体を伸ばし、吐くときにはお腹を圧迫させるとよいわけです。ラジオ体操第1の締めくくりの深呼吸はまさにそれです。

ラドクリフ選手の体を前後に振る動きですが、これはまさに大きく呼吸を行うための理にかなった動きといえるでしょう。書きましたように、サブスリーレベルでラドクリフ選手の動きを42kmの間真似し続けることは至難ですが、最低、体を真っ直ぐに起こし、呼吸を楽にする、これだけで疲れの到来がわずかでも遅れるはずです。

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