30キロの壁を感じなくなる下り坂トレーニング

富士山の下り
一歩の歩幅が2m近くにもなる富士山の下り。急な下りなのに筋肉疲労を生じない
下り坂トレーニングが30キロの壁克服になると思った最大のきっかけは、富士登山競走でした。富士登山競走は、富士吉田市役所前から富士山山頂まで、標高差約3,000m、距離約21kmの登る一方のレースです。これに加えて、ゴール後は標高差で700mある五合目のバス停まで自力で下らなければなりません。登るのも大変ですが、700mを下るのも大変です。

山をよく走る私は、たびたび700m程度の標高差を下りますが、その後の大腿四頭筋、二頭筋の筋肉痛は相当です。いつも平地ばかり走っている同行者は、そうした走りをするとその後1週間程度は痛みで練習ができないといいます。

私が富士登山競走で「おやっ」と思ったのは、翌日になっても筋肉痛が起きないからです。なぜ富士山では筋肉痛が起きないのか? 酸素が少ないせいではないでしょう。よく考えると、その下り方に理由があるとわかりました。富士登山競走の下りは、御殿場口の須走りほどではありませんが、砂礫に乗った足は、砂礫の中をズルズルと滑らせて一歩ごとに着地した足が1m近く滑り落ちます。このために、山頂からの下りは走ってしまえばあっという間です。この走り方に筋肉痛が生じない理由がありました。それは、足が滑ることによって着地時のショックを軽減しているせいです。

ジグザグの下り坂で強烈な筋肉痛

逆に、短い距離の下りながら筋肉痛が生じるコースもあります。

今は中止されてしまいましたが、東京都の最高峰である雲取山に登って下る雲取山タイムトライアルというレースがありました。このレースは全長約30km程度で、コースの最後に尾根からゴールまで一気に下るカ所があります。地形的にはかなりの急坂で、トレイルはいやになるほどジグザグが続いているというものです。この部分の標高差はわずかに500m程度ですが、このレースの後は筋肉痛に悩まされました。

筋肉痛が起きた理由は、道がジグザグであったためです。ジグザグの山道なので折り返すたびにスピードを殺さなければならないのです。下りは走り出せばすぐにスピードが上がります。そのスピードを20mほど走ってはブレーキをかけるという非効率的な走りを繰り返すのです。走っていると次第に、膝がガクガクしはじめ、ついには腰回りもショックに耐えられなくなり体を屹立させていることが苦しくなってきます。膝で緩和できなくなったショックが腰にくるのです。

私は中高年者のハイキングクラブ創設に関わり今もよく同行しますが、皆さん登り以上に苦手とするのが下りです。ちょっと長い下り坂ですといわゆる「膝が笑う」状態になるようです。中学生の頃から野山を歩き回ってきましたが、ランニングもせず運動不足だった頃はそんな経験があったことを覚えています。

この「膝が笑う」もやはり着地時のショックの積み重ねだと考えていいでしょう。ただし、下山行動で受けるショックは膝関節を左右にぐらつかせまいとする、膝関節回りの筋肉疲労もあります。

腿に手を当てて走るとショックの大きさがわかる

では、どのくらいのショックがあるのか、簡単に実感していただける方法があるのでご紹介します。

自分の腿に手を当てて歩いたり走ったりジャンプしてみてください。これだけです。どうです。筋肉がブルルンと収縮するのがわかるでしょう。そして、どのタイミングで筋肉が収縮するのか注意してみてください。

それは、着地する一瞬前であることがおわかりになると思います。今度は逆に腿の後ろ側、大腿三頭筋に手を当てて走ってみましょう。離地する時にピクリとします。順に着地する寸前に大腿部の前の筋肉である大腿四頭筋と脇にある大腿二頭筋が緊張し、続いて後ろ側の大腿三頭筋が緊張しています。

着地時に筋肉が緊張

急な下り坂
下りでスピードが上がるにつれ、着地時のショックはどんどん大きくなる
脚の筋肉は空中にある時はリラックスしているのですが、着地から離地までの一瞬間筋肉が収縮します。この短い中でも最も筋収縮があるのが着地時です。

もし着地時に筋肉が弛んでいると体はふにゃふにゃとなり、地面からの反発をしっかりと次の一歩に伝えられません。ゴルフでも野球のバッティングでも脱力したスイングでスピードを上げ、インパクトの一瞬は筋肉を引き締めてコントロールしつつ反発力を高めます。ハンマーで石を叩いたり釘を打つというときも、打撃の瞬間に腕の力を引き締めます。もし弛んでいるとしっかりとハンマーから打撃物に力が伝わりません。

フルマラソンで着地する回数は、ストライドの長さで42.195kmを割った距離です。片足の回数はその半分です。歩幅が1mなら片足あたり21,097回のジャンプです。1.25mで16,878回。こんなにジャンプを続けたことはないでしょう。

この繰り返しによる勤続疲労ならぬ「筋続疲労」が、あまり走り慣れていない距離(あるいは着地の回数と言い換えてもいいでしょう)になると生じるのです。

ハーフマラソン程度ではあまり影響がない

フルマラソンを4時間30分以内程度で走れる方ならば、ハーフマラソン程度の距離(あるいは着地の回数)では、それほど影響が出ません。しかし、30kmともなるとそのショックによる影響が出ます。このショックに強くなるには、最低でも30km走らなければならないことになります。レース距離が42kmなので、45km程度を週に2、3回走る必要がありそうですが、一般の市民ランナーにそんな練習は無理というものです。

それに代わるとまではいきませんが、短時間でショックに強くなるトレーニングが意外なところにありました。それは知らず知らず取り入れていたトレーニングだったのです。次ページに紹介する「下り坂トレーニング」です。