下り坂トレーニングで30kmの壁を乗り越えよう! 

下り坂になると、自然にストライドが広がり、ピッチも早まる。大きなフォーム作りにも有効

下り坂になると、自然にストライドが広がり、ピッチも早まる。大きなフォーム作りにも有効
 


マラソンでよく言われる言葉に「30キロの壁」があります。あるときは「35キロの壁」と言われることもありますが、30~35キロで、がくっと体が動かなくなりスピードが落ちてしまうことを言います。

これは不思議なことに、4時間程度の市民ランナーだけでなく、選手権に出るようなエリートランナーにもよく見られます。30キロに潜む魔物の正体は何なのでしょうか。

マラソンでは我ながらうまくペース配分していると自画自賛の自分のレース歴なのですが、やはり何回かこの壁に当たってしまったことがあります。30キロの壁があるのは、「スタミナ不足」「走り込み不足」とよく言われるのですが、それでは「スタミナ」とは何か、走り込んでいると思われるエリートランナーでも30キロの壁が生じるのはなぜなのか……。その答えは、30キロの壁など感じさせずにイーブンペースはおろか、後半にペースを上げる走りをするランナーが持っているでしょう。
 

マラソン30キロの壁の三大原因1 エネルギー切れ

私は以前30キロの壁が生じる最大原因はエネルギー切れだと考えていました。人の体が効率的にエネルギー化できる燃料、グリコーゲンを蓄えられる量はわずかです。その量は訓練を積んだエリートランナーでも数百キロカロリーといわれ、10km分程度です。不足分については、脂肪を燃焼しエネルギーとして使用するわけですが、マラソンの運動量を満たす程度なら、誰でも十分以上に脂肪を蓄えています。そう考えると体脂肪や内臓脂肪が多い人ほど長距離向きのはずです。

しかし、体重がある人ほど長距離は不得手です。体重があるために、運動量が増えることが不利であることはわかるのですが、その分燃料はたっぷり使えるのにやっぱりダメなのです。

私自身、途中の補給に工夫をしてエネルギー切れを予防し、ペースの維持に成功したことがなんどとなくありますし、いわゆる「シャリばて」というエネルギー切れが、クッキー数枚で回復したという経験もしています。体を動かすための持続的な燃料補給が、ペースダウンの予防に大きな役割を果たすことは間違いなく、マラソンにチャレンジするならまず念頭におくべき要素です。

例えば、ハーフマラソンで使用するエネルギー量は、体重60kmの人なら1260kcalです。このうち半分近くは、燃焼効率の良いグリコーゲンを使用できます。残りは燃焼効率の悪い脂肪を使用するわけですが、燃焼効率の悪さによる疲れを感じるまでにゴールに達してしまいます。フルマラソンにおいて中間点以降は、脂肪の代謝によってエネルギーを生み出すスピードが体が使用するエネルギー量に対応できなくなったときを境にパタッと体が止まってしまうわけです。このポイントは人によります。準備にもよります。
 

マラソン30キロの壁の三大原因2 ペース配分の誤りと脱水

ペース配分の誤りから、さまざまな筋肉疲労が生じて体が動かなくなるということがあります。ウォーミングアップが十分ではない序盤からスピードを上げてしまい、疲労物質の乳酸を蓄積させてしまうとか、汗をかき出すポイントが早くなって、心肺機能が体の動きに追いつかないというような場合です。

市民ランナーの場合で言うと、自分よりスピードランナーのクラスに並んでしまい、序盤につい引きずられてスピードを上げてしまうとか、東京マラソンのコースのように、前半にスピードが出てしまう下り坂があり、下り坂で上がったスピードのまま前半を走ってオーバーペースになるというようなケースがよくみられます。

体内の水分が5%低下するとパフォーマンスの低下が顕著とのことですが、一般にマラソンでは普通に給水していても30kmあたりで5%程度の水分が失われます。前半によけいな汗をかくようなことをすれば、パフォーマンスが低下するポイントは30km以前になるでしょう。

こうしたペース配分の誤りから引き起こされる諸原因によって後半に大きくバテるということがあります。ただし、これは本質的な30kmの壁の原因ではなく、場合によっては15kmでも20kmでも起きえる現象です。
 

マラソン30キロの壁の三大原因3 ショックに耐えられない

これまでは上記の二つが大きな原因とされていました。そこに気を配り、トレーニングとしてあとは走り込めば走り込むほど効果がある、というのが一般的に言われていたこと(エリートランナーの場合には、高所トレーニングによるヘモグロビンの増加も大きな要素です。ただし、「30キロの壁」との大きな因果関係はないでしょう)。

私はこれまで言われてきた上記の原因に加えて、耐ショック能力を加えたいと思います。着地時のショックに耐える力の有無が、30キロの壁を突破する上で大きく左右するのです。その理由とショックに強くなるトレーニング法を次ページで説明します。
 

下り坂トレーニングで30kmの壁を感じなくなる

一歩の歩幅が2m近くにもなる富士山の下り。急な下りなのに筋肉疲労を生じない

一歩の歩幅が2m近くにもなる富士山の下り。急な下りなのに筋肉疲労を生じない


下り坂トレーニングが30キロの壁克服になると思った最大のきっかけは、富士登山競走でした。富士登山競走は、富士吉田市役所前から富士山山頂まで、標高差約3,000m、距離約21kmの登る一方のレースです。これに加えて、ゴール後は標高差で700mある五合目のバス停まで自力で下らなければなりません。登るのも大変ですが、700mを下るのも大変です。

山をよく走る私は、たびたび700m程度の標高差を下りますが、その後の大腿四頭筋、二頭筋の筋肉痛は相当です。いつも平地ばかり走っている同行者は、そうした走りをするとその後1週間程度は痛みで練習ができないといいます。

私が富士登山競走で「おやっ」と思ったのは、翌日になっても筋肉痛が起きないからです。なぜ富士山では筋肉痛が起きないのか? 酸素が少ないせいではないでしょう。よく考えると、その下り方に理由があるとわかりました。富士登山競走の下りは、御殿場口の須走りほどではありませんが、砂礫に乗った足は、砂礫の中をズルズルと滑らせて一歩ごとに着地した足が1m近く滑り落ちます。このために、山頂からの下りは走ってしまえばあっという間です。この走り方に筋肉痛が生じない理由がありました。それは、足が滑ることによって着地時のショックを軽減しているせいです。
 

ジグザグの下り坂で強烈な筋肉痛

逆に、短い距離の下りながら筋肉痛が生じるコースもあります。

今は中止されてしまいましたが、東京都の最高峰である雲取山に登って下る雲取山タイムトライアルというレースがありました。このレースは全長約30km程度で、コースの最後に尾根からゴールまで一気に下るカ所があります。地形的にはかなりの急坂で、トレイルはいやになるほどジグザグが続いているというものです。この部分の標高差はわずかに500m程度ですが、このレースの後は筋肉痛に悩まされました。

筋肉痛が起きた理由は、道がジグザグであったためです。ジグザグの山道なので折り返すたびにスピードを殺さなければならないのです。下りは走り出せばすぐにスピードが上がります。そのスピードを20mほど走ってはブレーキをかけるという非効率的な走りを繰り返すのです。走っていると次第に、膝がガクガクしはじめ、ついには腰回りもショックに耐えられなくなり体を屹立させていることが苦しくなってきます。膝で緩和できなくなったショックが腰にくるのです。

私は中高年者のハイキングクラブ創設に関わり今もよく同行しますが、皆さん登り以上に苦手とするのが下りです。ちょっと長い下り坂ですといわゆる「膝が笑う」状態になるようです。中学生の頃から野山を歩き回ってきましたが、ランニングもせず運動不足だった頃はそんな経験があったことを覚えています。

この「膝が笑う」もやはり着地時のショックの積み重ねだと考えていいでしょう。ただし、下山行動で受けるショックは膝関節を左右にぐらつかせまいとする、膝関節回りの筋肉疲労もあります。
 

腿に手を当てて走るとショックの大きさがわかる

では、どのくらいのショックがあるのか、簡単に実感していただける方法があるのでご紹介します。

自分の腿に手を当てて歩いたり走ったりジャンプしてみてください。これだけです。どうです。筋肉がブルルンと収縮するのがわかるでしょう。そして、どのタイミングで筋肉が収縮するのか注意してみてください。

それは、着地する一瞬前であることがおわかりになると思います。今度は逆に腿の後ろ側、大腿三頭筋に手を当てて走ってみましょう。離地する時にピクリとします。順に着地する寸前に大腿部の前の筋肉である大腿四頭筋と脇にある大腿二頭筋が緊張し、続いて後ろ側の大腿三頭筋が緊張しています。
 

着地時に筋肉が緊張

下りでスピードが上がるにつれ、着地時のショックはどんどん大きくなる

下りでスピードが上がるにつれ、着地時のショックはどんどん大きくなる


脚の筋肉は空中にある時はリラックスしているのですが、着地から離地までの一瞬間筋肉が収縮します。この短い中でも最も筋収縮があるのが着地時です。

もし着地時に筋肉が弛んでいると体はふにゃふにゃとなり、地面からの反発をしっかりと次の一歩に伝えられません。ゴルフでも野球のバッティングでも脱力したスイングでスピードを上げ、インパクトの一瞬は筋肉を引き締めてコントロールしつつ反発力を高めます。ハンマーで石を叩いたり釘を打つというときも、打撃の瞬間に腕の力を引き締めます。もし弛んでいるとしっかりとハンマーから打撃物に力が伝わりません。

フルマラソンで着地する回数は、ストライドの長さで42.195kmを割った距離です。片足の回数はその半分です。歩幅が1mなら片足あたり21,097回のジャンプです。1.25mで16,878回。こんなにジャンプを続けたことはないでしょう。

この繰り返しによる勤続疲労ならぬ「筋続疲労」が、あまり走り慣れていない距離(あるいは着地の回数と言い換えてもいいでしょう)になると生じるのです。
 

下り坂トレーニングで、短時間でショックに強くなる

フルマラソンを4時間30分以内程度で走れる方ならば、ハーフマラソン程度の距離(あるいは着地の回数)では、それほど影響が出ません。しかし、30kmともなるとそのショックによる影響が出ます。このショックに強くなるには、最低でも30km走らなければならないことになります。レース距離が42kmなので、45km程度を週に2、3回走る必要がありそうですが、一般の市民ランナーにそんな練習は無理というものです。

それに代わるとまではいきませんが、短時間でショックに強くなるトレーニングが意外なところにありました。それは知らず知らず取り入れていたトレーニングだったのです。次ページに紹介する「下り坂トレーニング」です。
 

下り坂トレーニング法とは?

平地はベタ足走法の人でも下り坂になるとストライド走法に近づく

平地はベタ足走法の人でも下り坂になるとストライド走法に近づく


筋肉トレーニングには「超負荷の原則」があります。ある箇所の筋肉を強化したければ、そこにかかる負荷の強いトレーニングを行うと筋肉が強化されるというものです。ショックに強くなるトレーニングも同じこと。ランニング時に足にかかる加重は体重の2~3倍といわれます。この加重をもっと増やして走れば、ショックに強い筋肉を作る超負荷トレーニングになります。

一つの方法はウエイトを背負うなどして体重を増やす方法が考えられます(くれぐれも食べて体重を増やさないこと)。しかし、ものを背負うとスピードが遅くなります。フォームも乱れます。そこで考えたのが下り坂を走ることです。下り坂には走り方があり、本来はなるべくショックを減らすように下るのですが、ショックに強くなるトレーニング走法としては、ショックを受け止めて走ります。ショックを減らすためには、ショックを膝で受け流すようにして、斜面の傾斜に平行に滑るように体重の重心を移動するのが理想です。このために体が傾斜に対して垂直になるように走ります。

しかし、ショックに強くなるための下り坂トレーニングでは、本来下り坂の走法としては最悪のかかと着地で下ります。体は起きあがっており、水平に対して垂直、路面の傾斜に対してはやや後ろに反っくり返るようになります。

こういう走りをすると大腿四頭筋が痛みます。それだけショックを受けているからです。
 

下り坂トレでマラソンのタイムだけ超短縮

私がトレイルランをはじめてから、ハーフぐらいまでのタイムはそれ程短縮しないのに、マラソンのタイムだけは大幅に短縮できた理由は、後で考えればこの下り坂トレーニングを知らず知らず取り入れていたことが大きかったように思います。タイムを短縮したときに、おそらく山トレの効果であろうとは思っていましたが、上り坂を走る効果によるものだと思いこんでいたのです。

もちろん上り坂トレーニングの効果も見逃せません。特に心肺機能を強化するトレーニングとしては最適だと思います。下腿部の強化にも向いています。しかし、上りは全然ダメだが平地のマラソンには強いという人は結構いるのです。
 

下り坂トレーニング方法を実践するには?

下り坂トレーニングのコースには、長い坂道が理想だが、なければ跨線橋のような橋でも練習に使える。トラックを周回するつもりで何回も往復しよう。下り坂の距離が短ければ、その分スピードをアップする

下り坂トレーニングのコースには、長い坂道が理想だが、なければ跨線橋のような橋でも練習に使える。トラックを周回するつもりで何回も往復しよう。下り坂の距離が短ければ、その分スピードをアップする


この下り坂トレーニングですが、実施する上で守っていただきたい重大な注意があります。その最大のものは、平地以上に大きなショックが下腿にいくほどかかるということです。腰、大腿部、膝周囲、下腿部、足首部、足部と加重が大きくなります。平地で3倍の加重がかかるところがもし5倍かかるとすれば、体重60kgの方の場合の差は120kgの差。したがってトレーニングは決して無理をしてはいけません。次のようなステップを踏んで次第に強いトレーニングに移行してください。

1.もっとも痛めやすい膝関節と周囲の筋肉をスクワットなどの筋トレを一定期間行い、強化した後にする
2.同様の理由で、下り坂トレーニングを行う前には、膝を中心として十分にウォーミングアップを行う
3.かかと部のクッションがいいシューズ、着地時のぶれを受け止める安定性の良いシューズを用いる(トレーニングシューズに多い)
4.はじめは緩やかな傾斜の坂で行う。距離も短めにする

高地トレーニングを取り入れた選手がマラソンで好成績を残しています。酸素濃度の薄い場所でのトレーニング効果はだれもが認めるところです。しかし、私は高知トレーニングの効果は、「高地」であるからだけではないと思っています。「高地」はたいてい「山地」です。アップダウンが豊富にあるでしょう。高所で上りでは心肺機能を強化し、下りではショックに強い足を作れる、そうした効果が良い成績をもたらしているのだと思います。

上り坂、下り坂の走り方には、いろいろな目的に沿った練習方法があります。そうした練習方法については、また別途にご紹介しましょう。

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