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苛烈極める「富士登山競走」を完走する方法(2ページ目)

日本一の富士山に麓から一人で駆け登る富士登山競走。大会の様子も困難さもフルマラソン大会とは違います。だからこそ一度は完走してみたいと挑戦者が増えてます。

谷中 博史

執筆者:谷中 博史

ジョギング・マラソンガイド

富士登山競走完走対策

急な勾配に背も折れ曲がる
勾配も急になり、体を起こしてでは足が前に進まない。背筋、腹筋が必要
いまさらいうまでもなく、富士山は山頂に近づくほど急峻です。実際には登山道はジグザグしているので、それだけ長く上り坂が続くわけです。遠くから眺める富士山の輪郭線の傾斜を登るわけではないのですね。おまけに、足場が火山礫(れき)。崩れやすく、足の運び方、置き場が悪いと、歩幅を損する上に肉体的にも精神的にも消耗します。

こんな坂道を登る力が求められます。「それじゃ、自分は登りに弱いから練習してもダメだ……」と諦めないこと。登坂力は練習によって必ず強化されます。

では、登坂力をつけるにはどのような練習が効果的なのでしょうか。

富士山で練習するのが一番だが……

八合目を過ぎると足が黄色に
八合目あたりから高所障害の症状が出てきやすい。なんとなく意識が薄れて思考力が落ち、ふらふらするような。前のランナーを見ると肌の色が黄色みがかっていた
私は、日本一の富士山を登る力をつけるには富士山に登るトレーニングが一番と思っています。なぜ富士山がよいかというと2つの大きな理由があります。

その1:富士山以上に標高差と長い登り坂が続く山がないことです。これは富士山が日本一である以上当然でしょう。長時間登り続けるだけのトレーニングをするには富士山以上の環境がないのです。

その2:高所トレーニングができるということです。標高3,000mを超えると高所障害を発する人が増えますが、日本で最高峰といえば他を大きく引き離して富士山ですから、これも富士山に勝るトレーニング環境はありません。

こんな富士山に匹敵する練習環境は誰もが得られるというものではありません。となれば、それに近い練習方法を工夫する必要があります。富士登山競争は、それぞれに独特の工夫と練習を重ねた結果を競い合う大会でもあるのです。次に私のやり方をご紹介しましょう。これに皆さんも工夫を加えてみてください。

富士登山競走完走を目指す練習方法

登山者もびっくり
ゆっくりゆっくりの登山者の脇を息も荒く足を運ぶ。もうゴールは近い
富士登山競走のレースは、大きく分けて2種類の脚力が要求されます。ひとつは上り坂を走る脚力であり、もうひとつは上り坂を歩く脚力です。

私の場合、馬返し(11km地点、標高差約700m)までは走り続けることにしています。頑張ればさらに走れるとは思いますが、その後のことを考えてここからは平地(といってもわずかなものですが)以外は歩きます。

■登坂<走>力をつける
3時間30分以内で走るような方は5~6合目くらいまで走っているし、トップグループになると歩く箇所はほんのわずかのよう。しかし、完走を目指すレベルならば馬返しまで走れれば十分でしょう。

馬返しまでの上り坂を走る力をつけるには、なるべく長い、それでいて走れる程度の傾斜の坂道で練習します。長い坂がなければ短い坂でもいいですが、負荷をかける意味でスピードを速めるインターバルに似た練習です。もし、ジムを利用できるならトレッドミルの傾斜(インクライン)を10~15%にして走ります。距離は11kmがひとつの目安です。これは平地を走るようなわけにはいきません。かなり苦しいとは思いますが頑張ってください。補助運動としては、カーフレイズや軽めのジャンピングスクワットを行います。

■登坂<歩>力をつける
走ることがままならなくなれば、歩きになりますが、急坂をいかに早く歩くかが<完走>の要点になります。

同じ階段を、 A.走りあがる B.1段飛ばしで走りあがる C.1段飛ばしで歩きあがる を試してみてください。かかる時間と呼吸の苦しさは、BACの順だと思いますが、大腿部の筋肉の痛みは、CBAの順ではないでしょうか。Bがよいように思いますが、呼吸が苦しくなり長くは続けられません。ランナーはCのような足の使い方をしません。無理に足を開いているため筋肉を無理に使って下り、そのために筋肉痛が生じています。しかし呼吸は比較的乱れません。

標高2500mの酸素濃度は下界の74%の薄さになるそうですが、呼吸が苦しくならない走り方が富士登山競走では合理的です。したがって、歩くパートのためには、CやBの練習が適していると考えられます。Bはむしろ走るパート向けの練習といってよいでしょう。

そこで、練習コースにも走り続けられないような急坂がほしいのですが、そんな坂道は標高差が1000m以上にもなるような山にしかないでしょう。私の場合も近くにそのような練習環境がなく、やむを得ず歩道橋程度の階段の上り下りが日常の練習です。週末になると標高差が700~800mある山へ出かけ、山頂まで2~3往復します。

■有効なクライミングマシン
雨が降ったらどうするか? この場合はジムへ行きクライミングマシン(足応えのない、無限の空中階段を登るようなマシン)を使います。これならいくらでも長い上り坂練習ができます。ただ、トレッドミルにしてもクライミングマシンにしても、合理的ではあるのですが、やっていてつまらない……。雨天の時以外やりませんが、この欠点を除けば富士登山完走対策としては効率的な練習方法になります。

■腕力も鍛えよう
腕も使ってよじ登る
岩角やコースロープ、鎖も利用しとにかく前進あるのみ
砂礫の多い富士山ですが、七合目付近では岩場を通過しなければなりません。勾配が急で、足だけでなく手も使う登り方が、足への負担を軽減し重心も安定させて有利。腕に体重がかかったり体を引き上げたりしますから、腕力がものをいうことになります。

体を引き上げたり、鎖や岩角を掴む握力を鍛える補強トレーニングとしては、懸垂運動が有効のよう。マラソンレースのためにはダンベルや腕立て伏せをおすすめしますが、富士登山競走には懸垂です。

■呼吸を大きく空気をたくさん吸う
高度障害の出方には個人差がありますが、高度障害が出ないという人でも実際にはポテンシャルは低化していると考えられます。レースでは、コース脇にはぐったりしているランナーと登山者をたくさん見ます。前を走る人を観察すると体が黄色っぽくなっています。

サラブレッドは走り出すと鼻腔を大きく広げ、より多くの空気を取り込もうとします。ヒトはそんなわけにいきませんが、大きく呼吸をして空気をたくさん吸いこみましょう。といっても、これにはコツがあります。すでに肺に入っている空気をなるべくたくさん排出してしまわなければ、空気をたくさん取り込むことはできません。まずは大きく息を吐き出す呼吸法を日常時から実行してください。もちろんレース時にも意識しましょう。

これとともに腹筋、背筋を鍛えます。登坂姿勢はどうしても前かがみになりがちですが、前かがみになるとお腹が圧迫され、深い呼吸ができなくなります。腹筋、背筋を鍛えることにより呼吸も楽になります。腹直筋の筋トレは腿上げのトレーニングにもなります。

酸素ボンベを試したことがありましたが。酸素が出るのはほんの数秒間だということで、大量に使わなければ意味がないようです。といって何本も背負って走るロスを考えると、マイナスのほうが大きいような気がします。

要は、肺に代表される呼吸器の働きを高めることと、酸素を取り込める血液の質、そしてその血液を体の末端まで早く送ることです。血液の質と循環機能を高めるのです。

また、疲労や寝不足も高度障害を起しやすくする要因です。スタート時間が早いので、前日は早く就寝しましょう。
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