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紳士靴、この10年を総括する! その2(4ページ目)

西暦2000年頃からの紳士靴の10年を振り返る後編は、フランスとイタリア、それに日本の靴について振り返ってみたいと思います。そして、これからの紳士靴の作り手とユーザーとの関係についても考えてみます!

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

ワンオフと普遍性との両立ができるか?

どうなる紳士靴???
2010年以降の紳士靴の鍵になるのは、ズバリ個別対応力でしょう。その姿勢如何によっては、小さなメーカーや作り手が脚光を浴びる一方で、ネームバリューに胡坐をかく大きなメーカーやブランドが没落する逆転現象が起こりえます。既製品であってもブランド側の論理の押し付けではない、ユーザーとの「共同作業」による靴作りが、何より肝心になります。


わが国の紳士靴でこの10年あったもう一つの大きな動き、それはビスポーク、つまりハンドメイドの誂え靴の領域が絶滅寸前の状態から見事に復活し始めたことでしょう。海外の学校で靴作りを学んだ人、国内で研鑽を積んだ人、それぞれが独自のアプローチで自身の作を世に問うようになってきました。それまでわが国で手縫い重視の靴と言えば、この技術をお店としてしっかり守り続けた銀座ヨシノヤや今は亡き神田平和堂靴店(双方とも請け負っているのは同じアトリエです)など、極々限られた所でしかもはや見ることの出来ない風前の灯状態だったことを考えると、まだまだ課題はあるものの嘘のように蘇りつつあります。小生の記事でも彼らの靴を幾つも採り上げてきていますが、どこを取材してもこちらが元気をいただいて帰れるようなパワーを感じさせてくれるのです。

で、実際彼らの元にどのようなオーダーが来るのかと言えば…… 既製靴では解決できない何らかの問題を抱えた足を持つ方からの注文や、自らの美的感覚を満足させるために既製靴ではありえないデザインの靴を望まれる方ももちろん多くいらっしゃるようですが、それよりも受注の大きな核になっているのが、黒の内羽根式のストレートチップのような極めて普遍的な靴を、既製品でも致命的な不具合は起こさない足の持ち主が注文しているケースです。程度の差こそあれ、この状況はどこでもほぼ一致します。だったら既製品の方が安くていいような気がしません? 誂え靴という超個別対応製品で、普遍性の高いスタイルのものを発注するのって、一見大きな矛盾を感じるのですが…… 単なる見栄のため?

違います! どうかここを読み違えないで下さい。注文する側にとっては、もはやトレンド重視の既製靴では「自らが考える普遍的なもの」を追い求められないことに半ば絶望しているからこそ、それが実現可能な数少ない手段であるオーダーに走るのです! 誂え靴の持ついわばワンオフ性と伝統的な紳士靴が持つ普遍性は、ゆえに全く矛盾しないどころか、逆に見事に連動してしまいます。注文靴を中心としたハンドメイドシューズ大復権の影には、このような言わば「成熟した履き手」が、まだまだ少数ながらも徐々に増えていることと密接に関連があります。経済的な面ではなく思考的な面で、身に付けるものの意識に関して格差が広がっているとも申せるかもしれません。

その思考の頂点に立つグループは、収入はともかく本当に気に入ったものに対しては、得てして大金をつぎ込むものの、誂え靴は額面として高いのも事実です(履き心地を考えるとそうでもないのですが)。そこで出番になるのがパターンメードの靴です。完全な誂え靴に比べれば制約は多いものの、上述したワンオフ性と普遍性の双方がかなりの程度満たせ、かつ価格もそれよりはお手頃。前頁の山長の靴は既製品ではなく、このパターンメードからスタートした点でも履き手の心理を的確に捉えていましたし、前回の記事で言い残したエドワードグリーンのもう一つの評価ポイントもこれ、すなわち”Made to Order”を受け付けてくれる個別対応力の細かさにあります。ここ数年のわが国の好例では、宮城興業の「謹製誂靴」シリーズも忘れてはいけないでしょう。

もちろん、パターンメードのみが唯一の手段ではありません。既製品だけの展開であっても、商品の特徴別に的確にシリーズ分けがなされていれば、それと近似した効果は得られます。日本の紳士靴ですと、スコッチグレインのものがその辺りには以前から長けていて、近年その分類が更に解りやすいものになっています。要は作り手が商品を自らの価値観や戦略だけで履き手に無理矢理独善的に押し込むのではなく、彼らの「普遍性」を阻害せずに商品を選ばせてあげるような姿勢が、今後は肝心になるのではないでしょうか?

お買いもの際のワクワク・ドキドキが残っていて、今一番楽しいセレクトショップとさえ言われているインターネットオークションの普及も手伝い、「一番新しいものが当然一番素晴らしいもの」なる従来の価値観は、少なくともトップランナーの消費者にはもはやありません。同じ会社の製品の真のライバルは他社製品ではなく同じ会社の過去の名品であることに、彼らがとっくに気付いている中、その規模の大小や国の違いに関係なく、紳士靴の作り手が生き残れるか否かは、上述したような履き手と一緒に靴を作り上げてゆく姿勢、言わば「何処かの他のブランドとではなく、一人一人の履き手とコラボレートしようとする熱意」があるか否かにかかっていると思います。さてどうなるか? 2010年以降も小生の記事ではその視点を軸に様々な靴を採り上げて行くつもりですので、今後とも何卒宜しくです!
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