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紳士靴、この10年を総括する! その2(2ページ目)

西暦2000年頃からの紳士靴の10年を振り返る後編は、フランスとイタリア、それに日本の靴について振り返ってみたいと思います。そして、これからの紳士靴の作り手とユーザーとの関係についても考えてみます!

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

どこに行ったんだ、ノルベジェーゼ!

ノルベジェーゼ製法
西暦2000年前後のイタリア紳士靴で一気に普及した、ノルベジェーゼ製法のコバをアップしてみました(友人のもの)。側面の三つ編み縫いが今となっては懐かしい! イタリアの靴が自ら発信した意匠だっただけに、昨今お目に掛かれないのは少々残念でもあります。


その時々の先進的なデザインの特徴をしっかり嗅ぎ取り、より解りやすく噛み砕いた上で世に送り出す。どんなメーカーやブランドに限らず、そんな「編集能力の高さ」で常に唸らせてくれるのがイタリアの紳士靴の特徴です。悪く言えば真の独創性・オリジナリティーには、一部を除き実はやや劣る印象があるのですが、それとは明らかに異なる動きを示したイタリアの紳士靴が、今から10年ほど前には靴好きの間を賑わせていました。

スキー靴や登山靴にかつて多用されたノルウィージャン・ウェルテッド製法を簡略化した、ノルベジェーゼ製法の靴です。ブランドで申せばステファノ・ブランキーニ辺りが代表的でしたが、写真のようにバリバリにコバが張った分厚いレザーソールを、2重3重のこれ見よがしのステッチでアッパーに取り付けていた、あれ。あざといながらも縫いの手が込んでいる分価格も結構なものでしたので、この製法に似せながら実際はブラックラピド製法で簡略化したものも相当出回っていたほど、当時はそれなりの地位を獲得したのですが……

2005年辺りまでは、台襟が高く第一ボタンも2つあるようなシャツや派手なストライプ柄のスーツと合わせていた方も散見したこの靴、気が付くともう全く見なくなってしまいましたね。最大の特徴であるコバ周りが、この10年で世界的な主流が厚いものから薄いものへと見事に逆転してしまい、厚いソールを持ちながらもその逆流には踏ん張りが効かず、時代遅れの単なるあだ花と堕してしまった感があります。敢えて名前は出しませんが、当時のファッション評論家には「これぞ今求められているクラシック!」とか何とか言って盛んに需要を煽っていた人もいたのですが…… その頃頑張って買われてしまった方、今どうされていらっしゃいますか?

小生はこの種の靴の着用自体には興味が全く湧かず、結局買わずじまいでしたが、
「他人(特にフランスの靴やブランド)任せではなくて、自らの手で紳士靴の方向性を切り開いた」
と言う観点ではこの意匠の成り行きに大いに関心がありました。だからオリジネーターとも言えるステファノ・ブランキーニ自体ですら、もはやこの靴をほとんど手掛けていない現状はちょっぴり残念だったりもします。やっぱり普遍性の創造・持続型と言うよりも、フットワークの軽い流行追随型の靴作りがお家芸なのかな? 作られる地域によっても見た目が微妙に異なるイタリアの靴が、かつてのイギリスの靴のように変化に乏しいのも、まあ面白くないですし……

ただ見方を替えると、様々な要望に対応できる「小回りの良さ」を十分に活用出来さえすれば、イタリアの紳士靴は編集力に秀でている分、非常に魅力的な作品を提供してくれる能力を高度に持ち合わせているとも申せます。著名なブランドではなく、それほど大きくない工房にその傾向は顕著で、ワールド フットウェア ギャラリーで見ることができるフィレンツェのデュカルの靴が好例です。メガトレンドを追随し過ぎなくても良いから、発注者と製作者の明確な意思が伝わり、「これは洒落ている。カッコイイ!」と素直に思わせてくれる、言わばスマッシュヒット的な紳士靴が、今後もイタリアの靴メーカーから出てくることを期待しましょう。


で、我が国の紳士靴はどう変化したのかは、次のページで振り返りましょう!
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