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紳士靴、この10年を総括する! その2

西暦2000年頃からの紳士靴の10年を振り返る後編は、フランスとイタリア、それに日本の靴について振り返ってみたいと思います。そして、これからの紳士靴の作り手とユーザーとの関係についても考えてみます!

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

ベルルッティ革命!

ウエストン・ローファー
以前からの大定番、J.M.ウエストンのローファーです。色は紺。もともとフランスの紳士靴はこの靴のように「色」に特徴があるものが幾つかあったのですが、それが世界中に一気に認められたのが、2000年からの10年でしょう。


「紳士靴のこの10年を総括する」なる大胆不敵な?企画、前回はイギリスとアメリカの靴のこの10年を採り上げましたが、いかがでしたでしょうか? 「ああ懐かしい!」と思われた方、「へーそんなもんかねぇ」と思われた方、どちらもいらっしゃるでしょう。今回はまずはフランスの紳士靴の10年から振り返ってみましょうか。

世紀が変わる頃はちょうど、日本でベルルッティが活動を始めた頃と見事に重なります。青山のお店の開店までに、約一年とじっくり時間を掛けてマスコミに徐々に情報を流してゆく、LVMHグループらしい極めて、極めて緻密なマーケティング戦略にまず驚かされ、いざ実物を目の当たりにすると、それまでの常識では一見男性の靴とは到底思えない独特なデザインや色感に再び驚かされたのを、今でもつい昨日のように思い出します。当時のベルルッティは我が国だけでなく、英国などフランス本国以外への進出で一気に脚光を浴び始めた頃でもあり、正に紳士靴のフランス革命を起こそうとしている感を受けました。

その「革命」の影響が最初に訪れたのは間違いなく、同じくフランスの他の靴メーカー・ブランドでしょう。例えばイギリスの靴メーカー以上に保守的で固定ファンも非常に多かったJ.M.ウエストンは、婦人靴で人気のミッシェル・ペリーをデザイナーとして2000年に迎え入れ、その後の10年で大方の靴の印象が非常に即興的なものに変ってしまいました。英仏混血の絶妙な気品が特徴だった、エルメス資本のジョン・ロブ(パリ)の靴から”PARIS”の表記が消えたのもその翌年辺りからでしたが、パターンそれに色使いはそれとは逆にどんどんパリ的に、すなわち芸術的かつ奔放な方向に傾いてゆきます。

それらの動きが混然一体となって、イギリスやイタリア、それに日本など他国の靴にも大きな影響を及ぼしていったのは、前回のクロケット&ジョーンズの木型の話でもお解りいただけるでしょう。結果フランスの紳士靴はこの10年、常にデザインの最先端を突っ走り切り、紳士靴を実用品から言わば「男のアクセサリー」に代えてゆくのに多大な貢献を果たしました。その一番の功績は、男性の足元に一般的な黒や茶だけでなく、使う場にもよりますがドレスシューズであってもグレーや紫、赤や緑など華やかな色の選択を容易にしてくれた点、つまり紳士靴に色の解放をしてくれた点に尽きます。

反面、フランスの紳士靴は靴単体だけで見ると半端でなく美しいことが逆に災いし、それを「自身全体を美しく魅せることが出来る靴」と稚拙に取り違えた結果、足下とその上の装いが全くチグハグな人を増やしてしまった感も否定できません。いや、これは作り手と言うより履き手側の感性の問題なのでしょうが、
「ああ、足下だけ頑張り過ぎてるなー。そんなに誰かに注目してもらいたいのかな?」
みたいな、靴だけ妙に浮いている主「脚」転倒の低レベルの色気を気取った人が、正直以前より多くなっているのは、残念ながらこれらの靴の影響が確実にあるかと思います。昨今の大不況で多くの履き手がその種のアート性や気まぐれどころではなくなり、振り向けるべきエネルギーを足下の揺るがない方向に変えざるを得なくなっている言わば反革命状態の中、先進美が魅力のフランスの各靴ブランドが打ち出す次の一手が一体何になるのか、気になるところです。


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