靴クリームは、乳化性クリームだけでも多種類ある
「乳化性の靴クリーム」と一般的に総称しているものだけでも、迷わない方がおかしいくらい種類が大変多いのです。悩むと言うより、楽しんで使っちゃって下さい!
以前の記事(革靴の手入れに使うクリームの選び方と使い方)では、クリーナーと乳化性クリーム、油性ワックスの違いについて説明致しました。今回は、そのうち「乳化性クリーム」について、更に踏み込んで解説していきたいと思います。いずれにせよ、基本的な使い方は、以前の記事(スムースレザーの革靴のお手入れ方法!揃えるケアアイテム一覧)でお話した通りですので、そちらも合わせてご参照下さい。
新品の靴は無色、履き込んだら色付きでケア
靴クリームの売り場に行くと、殆どのところで乳化性のものは「無色」と「色付き」双方が売られていますが、どちらを選ぶべきかで戸惑ったこと、ありませんか? 黒の靴用はまだ「無色」VS「黒」と比較が簡単にできます。しかし、茶系のものになると、やれミディアムブラウンだコニャックだマホガニーだと「色付き」のものでもどれがベストなのか。さらに、それと「無色」とでどちらが有効なのか、慣れている人でも、なかなか判断が付かないのが実情です。個人的な結論を書いてしまうと、「お好みでどちらを選んでも構いません!」なのですが……。それでは回答になりませんので、一例を挙げますと、「新しいうちは無色で、履き込んできたら色付きでケア」が分かりやすい指針の一つではないでしょうか?
靴を履きこんでいけば、しっかりケアしていても色抜けや使用上のキズ・シミなどがどうしても発生してしまいます。そうなりだした時点で、補色のできる色付きの靴クリームにチェンジしてあげればよい、ということです。
また色付きのものを用いる際は、流石に黒の靴の場合はクリームも普通は黒のみですが、茶系の場合は靴の色よりも少し薄めの色合いのクリームを選ぶと、無難に済みます。もちろん「せっかく履き込んできたから、自分の色にしたい!」と言うのであれば、靴と同色だったり、色ムラを覚悟の上で敢えて靴より濃い色のクリームでケアしたりするのでも、全く間違いではありませんよ。
栄養補給よりも、補色・着色を重視した特殊な商品は別ですが、通常の色付きのものですと、たとえ靴と異なる色調のものを用いたとしても、一回のケアではそれほど劇的には靴の色は変わらず、積み重ねで徐々に変化してゆくものです。
また、革にも加工方法により、色ムラが出やすいものと出にくいものがありますので、この辺りは小難しく考えるより、履き込んでからのお楽しみにしちゃいましょう。
無色の乳化性クリームとデリケートクリームの違い
また、同じ靴クリーム売り場で同じブランドの「無色の乳化性クリーム」を、2種類見た経験がおありの方も多いでしょう。2枚目の写真のような、白色のマーガリンみたいなものと、右の写真のような半透明のゼリー状のものです。前者は通常の「無色の乳化性クリーム」ですが、後者は一般的には「デリケートクリーム」と呼ばれ、明確に区別されています。何が一体、違うんだ? 簡単に申せば、成分の配合比が異なるのです。乳化性の靴クリームの主成分は「水・油そして蝋」、これは前回の復習です。そしてデリケートクリームは、通常の無色のものに比べ油と蝋の配合比が少な目の、水分主体のクリームと考えて宜しいかと思います。油と蝋が少な目と言うことは、ケアで用いてもあまりツヤは出てこない反面、これらが影響するシミなどが起こりにくいとも言えます。なので、あまりテカテカに仕上げたくない場合やマットな質感が特徴の革、ラムスキン(仔羊)やキッドスキン(仔山羊)など牛革に比べ断然柔らかい革、或いはかなり薄い茶色の革を用いた靴には最適なクリームです。
極端に言えばリザード(トカゲ)やクロコダイル(鰐)などいわゆるエキゾチックレザーの靴のケアにも、このデリケートクリームは問題なく使えます。カバンや手袋など靴以外の革製品にももちろん使用可能ですので、1つ用意しておくと大変重宝しますよ。靴そのものに例えるならば、そう、黒のプレーントゥ(参考:プレーントゥの革靴をビジネスシーンで履くには内羽根?外羽根?)のような存在。分からなくなったら使うべきは、これでしょう。
乳化性クリームは、乳液状のものなら液体のものもOK
乳化性の靴クリームの中には、それこそ「クリーム状」にはなっておらず、液体になっているものもあります。これらのうちで、いわゆる「乳液状」になっていて、必ずブラッシング並びに拭き取りを要するものは、通常の無色の乳化性クリームと同様靴に用いていただいて大丈夫です。これらは本来、手袋やカバンなどのケアに用いるもので、正に化粧品の乳液と同様に浸透性が結構強いものが主流です。なので、革の組織構造上通常の乳化性靴クリームが浸透しにくいコードヴァン(馬の臀部の革)をアッパーに用いた靴のケアなどには、有効に活用できるかと思います。 一方、例えば「塗るだけで光る」等のセールスコピーが使われている液体のものは、個人的にはおすすめいたしません。これらを塗ってそのまま乾燥すると、革の表面に硬い覆いが被さるような状態になり、革の通気性も柔軟性も損なわれてしまい、放っておくと特に履きジワの部分から革にヒビが入るケースが多々見られるからです。
また、この「覆い」は落とすのも厄介でして、通常の靴用のクリーナーでは除去できず、最悪シンナーの協力を要する場合もあり、当然革の風合いが悪化してしまいます。確かに、瞬時に輝きが出るものではありますが、するべき手間をしっかりかけないと、後々最悪の結果が待ち受けているのは、どの世界でも同じことだと覚えておいて下さい。
【関連記事】