山岳事故は増加傾向。特に60歳以上の割合が高い
山岳事故・山岳遭難が話題になることが増えています。2017年中の山岳事故(遭難)は発生件数2,583件(前年比+88)、遭難者数3,111件(前年比+182件)、死者・行方不明者354人(前年比+35人)でした(出典:「平成29年における山岳遭難の概況」 警察庁)統計の推移をみると山岳事故は増加傾向にあります。2017年は統計の残る昭和36年以降、発生件数・遭難者数・死者行方不明の数は過去最高になりました(同統計)。
特に60歳以上の遭難者数は全体の51%を占めています(下表)。
年齢層別山岳遭難者の構成比 出典:「平成29年における山岳遭難の概況」 警察庁より筆者作成
さらに40歳以上という年齢までで見ると、全遭難者の77.8%が中高年・高齢者による山岳事故です。中高年・高齢者を中心に発生頻度の高い山岳事故と、それをカバーする山岳保険について解説していきます。
山岳保険ってどんなもの?
損害保険会社では「山岳保険」という保険商品を必ずしも専用に作って販売しているわけではありません。普通傷害保険や国内旅行傷害保険などに、山岳事故特有の特約や割増などを付帯して保険契約を行うことも珍しくありません。とはいえ、「山岳保険」のほうが一般の人には分かりやすく、商品名にこうした名称を使うことが多いようです。もちろん一部山岳遭難などに特化した保険もあるにはあります。なお、この記事でも以下、山岳保険に統一して解説を進めます。
こうした保険に加入している人は、パンフレットや保険約款、申込書などを見てみれば保険の種類が記載してあります。山岳保険というものの正式な保険の名称が記載されていますから、実際にどんな保険に加入しているのかが分かります。
山岳事故が発生すると、どのくらいの費用がかかる?
山岳で遭難する原因は、道に迷った、滑落した、ケガや体調不良で動けなくなった、急速に天候が悪化した、など色々あるでしょう。山岳事故などで遭難した場合、よく話題にのぼるのが「捜索費用」です。自治体や警察等のいわゆる公的機関であればコストはかかりませんが、山岳事故の場合は発生して捜索となると、多くの人手や機材、あるいはヘリコプターの手配などが必要です。
しかし、常に公的機関の人手や機材だけで足りるわけではありません。民間のヘリを捜索に使用したり、民間の団体に捜索の依頼をして出動要請したりすると、何十万円もの費用請求があるケースも珍しくありません。
山岳事故、特に遭難に対して、事前の準備や保険への加入は必要なケースが多いと言えるのです。
山岳保険の補償内容は?
最初にお話ししたように、基本は傷害保険がベースです。これに山岳事故に必要な補償を組み入れる形になります。主な補償は次の通りです。- 死亡・後遺障害
- 入院・通院などの医療費用
- 個人賠償責任保険
- 携行品損害
- 救援者費用(後述)
- 遭難捜索費用(後述)
個人賠償責任保険については、過去に何度か他の記事で紹介しています。山岳の場合でも、落石を起こした、物を誤って落として人にぶつかった、など何があるか分かりません。
また、遭難捜索費用は前述のように多額になることがあります。自分や家族に請求が来るため、払わないわけにはいきません。加入プランをよく検討する必要があります。
山岳保険へ加入する際のポイント
具体的な補償内容を確認したところで、山岳保険の加入時のポイントをまとめておきましょう。最初にちょっとした軽登山と山岳登はん(アイゼン、ピッケルなど使う登山)が保険上の扱いはまったく違うと考えてください。
山岳登はんをする人は承知しているでしょうが、重要なことです。
上で解説した「救援者費用」「遭難捜索費用」についてもう少し補足します。特に遭難捜索費用については重要なところですから、よく覚えておいてください。
●救援者費用
この補償は被保険者の移送費用(遺体の移送や大怪我した被保険者の移送など)、救援者の現地までの交通費や宿泊料などが対象になります。
しかし、遭難救助費用については通常、山岳登はんなど危険性の高いものの行程中に発生した事故は対象となりません。山岳登はんと軽登山ではこの費用については扱いが違います。
●遭難捜索費用
遭難捜索費用を担保する場合、通常、日本国内における山岳登はんの行程中の遭難が対象になります。
傷害保険などにこの補償を特約付帯するとなると、引受申請あるいは所定の割増がつくケースが一般的です。また、いずれも保険を適用するにあたり要件がありますから、契約の際に忘れずに確認してください。
ちなみに山岳遭難についての原因は道迷いがトップです。
【態様別山岳遭難者】 出典:「平成29年における山岳遭難の概況」 警察庁より筆者作成
山岳登はんをよくする人はむしろ保険の準備などはしっかりしている人が多いでしょうが、軽登山やハイキングなどの方が無防備なケースが多いでしょう。
わざわざ遭難したい人はいないでしょうが、遭難の原因をよく確認して自分にもあることとして登山に臨んでください。また加入時に保険がどのように場合に「対象にならないか」しっかり確認しておきましょう。
山岳保険はどこで加入する?
1年を通じて山岳登はんをする人と、たまに軽い山登りやハイキングをする人とでは、必要な補償が異なるのは分かるでしょう。山岳登はんだと、損保などで普通に保険に加入しようとすると契約引受申請になることは珍しくありません。業界団体などが取り扱っている山岳保険や、こうしたことを専門に取り扱っているところのほうが加入しやすいと思います。
具体的にいくつか挙げておきましょう。
●公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会 団体傷害保険
公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会での団体扱いの傷害保険。いくつかのセットプランがあり、遭難捜索費用などが入ったプランも。通常の傷害保険のため、日常生活の怪我も対象です。加入するには山岳共済会に年会費を支払って入会する必要があります。
●日本山岳救助機構合同会社(jro)
国内の山岳遭難について捜索・救助費用が550万円まで補填されます。保険などとはやや仕組みが異なっており、入会金・年会費を支払います。その後、次年度に、前年の支払い額を加入者全員で割って公平に負担する「事後分担金」を支払う制度になっています(2016-2018年は31円-80円程度)。
●日本費用補償少額短期保険
捜索・救助費用のみに特化した少額短期保険会社。これ以外の補償はないシンプルな保険です。補償額は300万円まで(年間保険料4000円)です。自分のケガは対象になりませんが、山岳遭難だけを考えると使いやすい保険です。
●一般社団法人日本損害保険協会 レスキュー費用保険
各損保へのリンクがありますので、どのような登山をするか具体的に伝えて相談してください。
登山に行く頻度や登山の内容(アイゼン・ピッケルを使うものかそうでない軽登山か)など、必要な補償や登山の状況に応じて加入先を検討するといいでしょう。
山岳事故や山岳保険加入よりも大事なこと
他の記事でもお話ししていることですが、保険は事故が発生した後の経済的な支援をするものです。山岳事故に遭わずに済めばそれが一番良いことです。自分や同行する人の登山経験に見合った山と登山ルートを選び、軽装ではなく万全な装備で臨みましょう。一部義務化されているものの、登山計画の届出をせずに山岳事故の被害に遭うケースがあります。登山計画の届出があれば、氏名や連絡先、登山の行程が分かるため、救助しやすくなります。
軽い気持ちで登山にいくほどこうしたことを軽視しがちです。最初に無理のない登山計画を立てて、それを登山口の届出先や家族や知人などにも伝えておくといいでしょう。自分自身の身を守るためにも、きちんとした準備をして登山に臨むことが必要です。
また、天候や状況が良くなかったり、体調が何となくすぐれなかったりすれば、無理に山に入らないことです。山に登る機会はまたあります。もし道に迷ったと思ったら無理に進まず来た道を辿り元のルートに引き返すなど冷静な判断も大切です。
最近は外国からの旅行者も多いので、この記事だけで注意喚起できる部分は多くないかもしれませんが、身の安全が第一です。自分の帰りを待つ家族、そして遭難した場合、救助する人も命懸けになることがあることを忘れないようにしてください。
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