ヨーロッパを思わせるエルサレム・キリスト教区~ユダヤ教区

聖墳墓教会

キリスト教の聖地、聖墳墓教会。内部にイエスが殺されたと伝えられるゴルゴダの丘がある ©Jlascar

スークをブラブラ歩いていると、次第に店が減ってきて狭い石畳の通りに出る。周囲は住居。そんなイスラム教区の中を、いかにも牧師や神父といった格好をした数十人の人たちが険しい表情で歩いている。ヴィア・ドロローサ行だ。

ヴィア・ドロローサとは、西暦30年前後にイエスが裁判にかけられて死刑判決を受け、茨(いばら)の冠をかぶり、十字架を背負って歩いた「悲しみの道」のこと。毎週金曜日にそのヴィア・ドロローサ行が再現される。終点はキリスト教区にある聖墳墓教会だ。イエスはこの場所で十字架にかけられ、殺されたと伝えられている。
ヴィア・ドロローサ行

ヴィア・ドロローサ行。イエスの歩みをたどり、14のステーションで祈りを捧げる

聖墳墓教会を出てアルメニア人地区を通り、ユダヤ教区に立ち入ると街の様相は一変する。街並みも、住んでいる人々も、まるでヨーロッパ。ファラフェル・サンドはユダヤ教区ではイスラム教区の数倍する。そういえば、CDの値段も全然違ったし、城壁の外ではバスの運賃もパレスチナ人バスとユダヤ人バスでは倍ほども違う。イスラエルではこのダブル・スタンダードが当たり前。

キリスト教区やユダヤ教区の小ぎれいな商店に入ると、イスラム教区では見られなかったお酒も売っている。ビールやワインはもちろん、アラックと呼ばれるナツメヤシからできたお酒や、水と混ぜると透明な液体が白く濁るラキなど、中東オリジナルのお酒もある。エルサレムでは、何気ない街歩きがこうした文化の違いを教えてくれる。 

エルサレム最高の聖地・神殿の丘

岩のドームと嘆きの壁

イスラム教の聖地・岩のドームと、その真下がユダヤ教の聖地・嘆きの壁 ©牧哲雄

ユダヤ教区を歩いているとやがて現れるのが嘆きの壁だ。驚いたことに、嘆きの壁のすぐ上にイスラム教の象徴ともいえる岩のドームが輝いている。イスラム教徒がひしめくモスクの下で、ユダヤ教徒たちは壁に頭をつけて一心不乱に祈り続ける。休息日=シャバットがはじまる金曜日は、ユダヤ教徒にとっても祈りの日なのだ。
岩のドームのタイル

イスラム紋様・アラベスクが美しい岩のドームのタイル ©牧哲雄

嘆きの壁をくるりと回って坂を登ると神殿の丘で、ここにたたずむのがエルサレムのハイライト、岩のドームだ。完璧な点対称をなす八角形、青のタイルの精緻なアラベスク、光り輝く金箔のドーム……美しい。内部の岩には天使ガブリエルの手形や、イスラム教の開祖ムハンマド(マホメッド)の足あとが穿たれており、壁には世界の崩壊を予言するといわれる天国のタイルなどもあったりする。 

岩のドームの隣にあるアル・アクサ・モスクでは、イスラム教徒がメッカの方角に向かって頭を床につけては立ち上がりと、定められた手順に従って祈りを捧げる姿を見ることもできる。
アル・アクサ・モスク

岩のドームの隣にあるアル・アクサ・モスク ©牧哲雄

金曜日はキリスト教徒もユダヤ教徒もイスラム教徒も熱心に祈りを捧げる聖なる日だ。旧市街にはアザーン(1日5回流されるイスラム教の祈り)や教会の鐘の音が響き渡り、祈りにあふれ、やさしさに包まれる。旧市街には教区を分けるバリケードもなければ検問所があるわけでもない。3教の信者が一緒に歩いている光景だって、それほど珍しくもないのだ。

それなのになぜ人々は殺し合うのだろう?