フランス女は、まずは徹底的に傷付く
作品はもちろんのこと実人生も興味深いYourcenar |
「La femme est tout ce que l'homme appelle et tout ce qu'il n'atteint pas.」(女とは男が望み、かつ手に入れることのない全てのものである)と言い切るBeauvoir女史の言葉を一つあげてみても、恋愛の主導権を握っているのは常に女性であるような気がしてきます。
とはいえ、彼女たちの辞書に「傷心」という言葉がない訳ではもちろんありません。むしろ、サディスティックなまでに徹底的に自分自身を絶望の淵に落とし入れ、恋愛のエネルギーを「男」から「自分自身」へと美しく転換させる術を心得ているのがフランスインテリ女。
恋愛を愉しむように、「失恋」を「知の探求」という領域へ見事に転換せしめた作家Marguerite Yourcenar(マルグリット ユルスナール)。彼女の若き日のこんな作品で、徹底的に失恋の傷口を広げてみるのもいいかもしれません。
めくるめく嫉妬の嵐と情念の炎に共感しよう!
ギリシャ神話を素材にし、不可能な恋愛を描ききる『火』 |
女性初のAcadémie française会員でもあるフランスの作家Yourcenarが、まさに実人生でもそうした状況におかれた時期に手掛けた作品が、『Feux』(火)。歴史上、神話上の有名人物たちの報われない情念が炎のようにくすぶりながら時代を超えて蘇り、失恋に苦しむ人々の傍らに寄り添います。
晩年の代表作『Memoires D'Hadrien』(ハドリアヌス帝の回想)や『L'Oeuvre Au Noir』(黒の過程)がかもし出す冷静、博識なフランス人インテリ女性の典型ともいえるような彼女のイメージが、ただの「嫉妬深い女」に近くなる。数冊読んで、そのギャップを愉しみつつ、将来の「凛とした自分」に思いを馳せることで、あなたの失恋にも豊かさが芽生えることでしょう。
On ne bâtit un bonheur que sur un fondement de désespoir. Je crois que je vais pouvoir me mettre à construire.
(幸福は絶望を基礎にしてしか築くことはできない。今こそ私は築きはじめることができるように思う。)『Feux』Marguerite Yourcenar
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