死後10年以内の死者たちが集団で突然街に戻って来る。遺族にとっては、まだ思い出の中で鮮明に生きている愛すべき人物たち。そんな彼らを受け入れることをよぎなくされる社会と家族たちの心の葛藤を描いた、話題のフランス映画Les Revenants(邦題:『奇跡の朝』)。今回は、そんな
『黄泉がえり』をテーマにもつ作品から、ありふれているがゆえに恐く、せつない日常会話をマスターしてみましょう。
ホラー、SF、ファンタジー?映画のジャンルをフランス語で学ぼう!
『奇跡の朝』:9月23日(土)ユーロスペース他全国順次ロードショー (C)Haut et Court,France 3 Cinéma,Gimages |
例えば、冒頭のよみがえった死者たちがゾロゾロ歩いてくるscène(セーヌ/シーン)。本作品での描写は、平和で明るい陽光のもと、生身の人間と変わらない無傷の人々が、その光を反射するような白っぽい服装を身にまとい列をなすといったものです。
ところがこのシーン、背景が夜で死者たちの風貌がゾンビちっくなものであれば、明らかにHorreur(オルール/ホラー)。テーマはScience-fiction(シアンス フィクシオン/SF)、描写方法から見ればDrame psychologique(ドラム プシコロジック/心理ドラマ)といったところでしょうか。
もちろん、Documentaire(ドキュマンテール/ドキュメンタリー)ではないのですが、死者の蘇生についてのreportage(ルポルタージュ)は、もしこのような事件が本当に起こったならば、必ずや映画に描かれているような政治的対応がなされるであろうというほどの現実味をおびたものでしたし、通常の人間よりは体温が低いles revenants(レ ルヴナン/よみがえった人々)の行動を観察するために、街の上空にうちあげられる白い気球が漂うさまは、Fantastique(ファンタンスティック/ファンタジー)の様相を呈しています。
仕事が忙しい夫に「黄泉がえり」の妻が語る第一声
(C)Haut et Court,France 3 Cinéma,Gimages |
「Tu rentres tard. Ça va ? Tu as l'air fatigué.」
(テュ ラントル タール。サヴァ? テュ ア レール ファティゲ。/遅かったのね。大丈夫?疲れているみたいよ。)
非常に簡単なセリフですが、初心者の皆さんのために細かく解説してみましょう。Tu(テュ)というのは、フランス語で親しい間柄で使われる主語人称代名詞です。英語のYouにあたる単語は、フランス語ではこのtuともう一つvous(ヴ)というのがあるのですが、後者は、丁寧な言い方、もしくは「あなたたち」を意味する複数形になります。この場合は、夫婦ですので、普通はtuで呼び合います。tutoyer(テュトワイエ/tuを用いて話す)という動詞も覚えておきたいですね。
つづいてrentres(ラントル)は、動詞rentrer(ラントレ/帰宅する)が、主語のtuにあわせて活用した形。語尾が-erで終わる第一群規則動詞ですので、細かい活用方法は記事『 フランス語動詞はこう覚える!』を御覧下さい。
また、tard(タール)は、「遅く」を意味する副詞です。Ça va ? (サヴァ)は、「元気?」あるいは、「大丈夫?」という意味です。頻繁に使われる言葉ですのでそのまま丸暗記で問題ないでしょう。
さらに、「Tu as l'air fatigué.」のasは、英語のhaveにあたる不規則動詞avoir(アヴワール)が活用したもの。avoir l'air(アヴワール レール) + adjectif(アドジェクティフ/形容詞)で「~のように見える」という意味になります。この場合は後ろにfatigué(ファティゲ/疲れた)という形容詞がありますから、「疲れてるみたい」という日本語になるわけですね。
さて、この非常にありふれたセリフ。実はこのシーンの前に、蘇った妻を窓から見ながら、市長は「Vous n'allez pas la voir ?」(ヴ ナレ パ ラ ヴォワール?/奥さんに会いにいかないのですか?)と聞かれ、「Non.」(ノン/行かない。)と答えて、仕事を優先したという経緯があります。生前、仕事で忙しい夫に日常的に語りかけていたであろうこのやさしい妻のセリフは、自らの死という大きな出来事を完全に無視しているとともに、「また、仕事を優先するのね……。私が戻ってきてもうれしくないのね……。」という意味にもとれ、二重に恐いものでもあります。
次ページでは、再会した恋人たちのやりとりについてみてみましょう。