詩織を招く
僕は平凡な男です |
「となると、彼女、詩織さんの周囲の人物ってことになるわね。つまり、二人のうちの一人の側の可能性がなくなった。これまでの話は無駄じゃなくて、これで半分にせばめられたことになるわ。後は、彼女から直接話を聞いたほうがよくない?」
「ご迷惑じゃないでしょうか」
「あら、でも乗りかかった船だし」
「時間を作って、このメンバーと高野君とでまた集まってみたらどうだ」
「そうよ。詩織さんから話を聞くのが一番いいと思うわ」
「そう言っていただけると。じゃあ、彼女に聞いてみます」
「早いほうがいいだろう」
その場で北村が詩織にメールをすると、すぐに電話がかかってきた。やり取りを聞いていると、春彦に相談することは知っていたらしく、4人で会うことにすぐに同意したようだった。北村が携帯電話を手でふさぎながら、春彦に都合を聞いた。
「先輩、いつがご都合よろしいでしょう? 僕たちはこの週末がありがたいんですが」
「あ、そう? ウチも大丈夫だよ。麻季子、どう?」
「全然OK。土曜でも日曜でも。ウチにいらしていただいてもいいし」
「そうですか。すみません。では、明日というかもう今日ですが、土曜日の午後ということでよろしいでしょうか? もちろん僕はいったん帰宅して、出直してきます」
結局、土曜日の午後3時に北村が高野詩織を連れてやってくることになった。話題が一段落して、春彦が北村と故郷や共通の知人のことなどを話し始めたので、麻季子は先に寝室に引き下がった。翌朝のリビングルームは、酒の匂いがこもっていた。窓を大きく開けて換気をして、ついでにルームコロンを噴射した。北村は朝食を辞して早くに帰って行った。春彦は飲み過ぎたらしく、すぐに起きようとしなかった。昼近くなってようやく起きるとトマトジュースを一気に飲んで、シャワーを浴びた。
「マイッタよ。北村のヤツ、酒が強いんだよな。俺はついていけないよ」
「あなたの郷里の人は酒飲みが多いのね」
「ああ、でも俺はやっぱ年かね。で、二人は何時に来るんだっけ」
「3時の約束でしょ」
「もう一眠りしようかな」
「どうぞ~。後で起こすわ」
午後3時少し前に、北村と詩織が連れ立ってやってきた。スレンダーな詩織は笑顔がかわいらしい誰にでも好かれそうなタイプだった。息子の翔太と麻季子にと言って数種類のケーキの入った大きな箱と、スコッチウィスキーを1本、手土産に持ってきた。翔太は友だちの家に遊びに行っている。麻季子は丁寧に紅茶をいれて、土産のケーキも出した。
「※お持たせですけど。どうぞ召し上がってくださいね」
「すみません。あの、本当に今日は申し訳ありません。お休みのところ」
「いいんですよ。高野さんはお仕事は何をしてらっしゃるの」
「受け付けをやっています」
「彼女は笑顔がいいからね。社外からも評判がいいんだよ」
受け付けという仕事柄、そして彼女の誰でもやさしく受け入れる雰囲気が、ストーカーを引き寄せるタイプだと麻季子は踏んでいた。
※お持たせ=「御持たせ物」の略。来客を敬って、持ってきた土産物をいう語。
連載第3回「ミセスの危機管理ナビ~女の周辺の疑惑」 も続けてご覧ください。
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