男の本性
緊急電話 |
「もしもし? あ、私。どうしたの? えっ、ウソっ! 本当に?」
泉があわてた様子で応答している。
「病院はどこ? 分かった。すぐに行く」
携帯電話をパチンと音を立てて閉じると、泉が立ち上がっていた。
「ねえ、父が交通事故に遭ったらしいの。これからすぐに病院に行くから。悪いけど、今回の話はなかったことにして。ちょっとそれどころじゃないから」
「あ、ああ。もしよかったら送るけど」
「いい。一人で行けるから。もしかしたらちょっともう電話できないかも」
「ぼくから電話するよ」
「ちょっと電話に出られる状況じゃないみたい。ごめんね、じゃあ」
そう言って泉は足早に去って、すぐそばの通りでタクシーに乗り込んでいた。麻季子はバッグの中の携帯電話をそっと閉じると、また雑誌を見ているふりをした。打ち合わせどおりとはいえ、泉の芝居はなかなかのものだった。隣のテーブルではリョウ君が「チッ」と舌打ちをして、やおら携帯電話で話し出した。
「ああ、もしもし、オレ。悪いけどさ、今日明日ってのはダメみたい。いや、女のさ、親父が事故に遭ったとかって連絡があってさ。それで、なんかヤバイらしいんだ。もしかしたら死んじゃったかも。うん。おまけにさあ、なんか事業計画書出せだとか、免許証見せろとか、うるさいことを言い出してさ。まいったよ。簡単に寝るような女だし、32歳なんてごまかしてたけど、38歳だぜ。オレより13歳も年上の女を楽しませてやったのにさあ」
向こう隣のテーブルには外国人が座っているからか、自分の後ろにいる麻季子の存在を忘れているのか、リョウ君の声は大きいので麻季子には全部聞こえていた。13歳年上? ということは27歳ではなく25歳ということだ。
「え? うん、そう。免許証をこっそり見たんだよ。もちろん名前もウソだったし。美人で体も悪くなかったからいいけどさ。やっぱもっと若くて、軽い女のほうがいいのかもな。下手に仕事が出来る女となると、会社をやるなんて話じゃこっちがヤバイよ。会社勤めなんてしたことないからな。この間までは話にも乗っていたんだが。まったく運が悪いよ。ええ? いや、もう追わない。住所が分かっていても、これ以上やってもさ。ああ、ネタになるような写真を撮るチャンスもなかったしな。
父親が事故って怪我したか死んだかした女から金をもらうんじゃ夢見も悪いだろ。オレ、そこまで悪人じゃないから。だから、もうちょっと待ってくれよ。必ず返すからさ。それより、サラ金のほうがいい加減ヤバイんだよなあ。催促もキツイし。うん。まあ、うまく行けば、今週末のレースで返せるかもしれない。絶対に来ると思ってんだ。なに今日? これから? いいけどオレ金ないよ。分かってるよな。いつでも金欠トオル君だから。ははは。分かった。店に直接行ってる。じゃ、後で」
リョウ君、すなわちトオル君は電話を切るとサッサと立ち上がってテーブルの上に飲み物の容器を残したまま立ち去っていった。麻季子は男の本性を見たと思った。すぐに泉に電話を入れた。歩いて5分ほどのホテルのロビーにいると言う。麻季子がホテルに向かうことにした。泉に話さなくてはならないことがたくさんあった。そして、誰に似ているのかやっと麻季子は思い出していた。話し方や品性はまったく違うが、麻季子も泉もよく知っていた男に似ているのだった。
次回はいよいよ最終回。彼の本性を泉に告げる麻季子。リョウ君に似ている男とは? 泉がなぜ、彼にハマッたのか、麻季子が心理を分析します。
連載第4回「ミセスの危機管理ナビ~男と女の化学反応」 最終回アップしました!
【全4回】
連載第1回「ミセスの危機管理ナビ~独身美女の仕事と男」
連載第2回「ミセスの危機管理ナビ~男と女の間のウソ」
連載第3回「ミセスの危機管理ナビ~男の本性、見たり!」
連載第4回「ミセスの危機管理ナビ~男と女の化学反応」
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