防犯/防犯小説

女が夜道でつけられる時(前編)(2ページ目)

女性が怯えるものに「夜道で見知らぬ男につけられること」というのがあります。誰にも助けてもらえない、逃げ場がない、そんな恐怖体験を持つ女性は多いのではないでしょうか。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

フェイント

恐いから携帯電話を
恐いから携帯電話を
(どうしよう?)走り出すわけにもいかないし、かといってコンビニのほうに戻るのも面倒だ※5。もうすでに時間は深夜であり、疲れてもいる。早く家に帰ってゆっくりしたいのだ。(そうだ。次の角で曲がってみよう。右に曲がって左、左と曲がればまたこの道に戻るわ)少しばかり遠回りになるが、まっすぐ家に向かうよりはいいだろうと思った。知美は何よりも背後の男と離れたかった。一種の「フェイント」になるだろう。

角に近づきながら、アッと思った。(もし、曲がっても男がついてきたら?)それも恐い。もっと恐い。だが、このまままっすぐ行くよりは、賭けのようなものだが、とにかくアクションを起こしてみようと思った。角を曲がってもついてきたら元の道に戻ればいい。ドキドキしながら、ごく普通の様子でスッと角を右に曲がった。ちょっと行ってから、さりげなく左肩越しに今来た通りを振り返った。

すると、先ほどの男がそのまま道をまっすぐに歩いていった姿の半身が見えて、すぐに見えなくなった。黒っぽい上下の特に目立つ服装でも体格でもなかった。(ほぅ~)とため息をついた。(あー、よかった。これでもう会わずに済むわ。まったく、こんな夜中に人を脅かさないで欲しいのよね)と思った。そのまま歩いていたが、こちらも同じ住宅街の細い道だ。なぜだか恐くなってしまったので、誰かと話したかった。

携帯電話を取り出した。話し相手になってくれるような友だちの顔を思い浮かべて、アドレス帳から呼び出して電話をかけた。ちょうど最初の角にかかったので、後ろを振り向いた。誰も見えない。安心してそのまま角を曲がった。歩きながら携帯電話を耳に当てて、呼び出し音に続いて聞こえてきた友だちの声にホッとした。

「あ、もしもし。あたし。ト・モ・ミ。ごめんねー、こんな時間に。うん、そう。今、帰るところなの。ううん。まだ外を歩いてる。今さ、後ろに男が歩いていてね、足音もさせないで突然、後ろにいるからビックリしちゃって。あ、うん。もう大丈夫。いなくなった。違うのよ。道をわざわざ曲がったの。遠回りだけどさ。え? ううん。一応、後ろはちゃんと見た。もういないから。あ、明日、早いの? うん、分かった。ごめんね。じゃ、また電話かメールする。じゃーね」

そうしてまた次の角を曲がった。携帯電話をバッグの外ポケットに入れた※6。街灯の明かりの向こうに、最初に通った自宅へまっすぐ帰る道が見えた。人影は見えない。(まったくぅ。余計な時間がかかっちゃったわ。早く帰って食事してお風呂に入らないと)手に持ったコンビニの袋を反対の手に持ち替えて、そのまま元の通りを右に曲がろうとした。

なぜかちょっと恐い気がして、左側はチラッと見ただけではっきりとは見なかった。あまり露骨に見て、誰かいたらかえって気まずいかもしれないと思ったのだ。だが、視界の片隅にも人影は見えなかった。そのまま数メートル行ってから、何の気なしにまた肩越しに振り返った。通りが見えるだけで、人の姿はないはずだった。だが、知美の目には、先ほどの黒っぽい服装の男の姿がまた、映し出されていた……。

女が夜道でつけられる時(後編)に続く。


■文中の※注意点について、→次ページで解説しています。ぜひご覧ください。

→注意点解説/あなたの一票/関連ガイド記事 p.3
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