防犯/防犯小説

女が夜道でつけられる時(後編)

夜道で男が背後に迫ったとき、知美は角を曲がって男をやり過ごしたつもりだった。だが、左回りで元の道に戻ったとき、またしても同じ男の姿が! 知美は恐怖に怯える。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

※この記事は、女性が遭いやすい夜道での出来事について書いてあります。文中の※注意点は、最終ページで解説しています。

女が夜道でつけられる時(前編)を先にご覧ください。

男と対峙する

夜道は恐い
夜道は恐い
知美は愕然とした。数メートルしか離れていないそこにさっきの男がなぜまたいるのか? まっすぐに行かずに、右に曲がってから左周りに歩いてきたのだから、ワンブロック歩く3倍の時間がかかっている。とっくに先に行っていて男の姿はなくなっているはずだったのに、なぜ? 息を呑んだまま、目を見開いて体が動かなかった。

せっかくやり過ごしたと思ったのに、男はどこにいたのだろうか? 男の姿の向こうに通りをぼんやりと照らす街灯が見えた。ちょうどそこにある家から樹木が生い茂って街灯の向こう側が暗く陰になっている。あのあたりで待っていたのだろうか。何を、誰を…?

だが、夜道で見知らぬ男と対峙していても仕方がない。何もなかったふりをして、また前を向いて歩き出した。自宅マンションはもうじきだ。(どうしよう? どうしたらいい?)頭の中でグルグルと考えた。別に刃物を持っているわけではないかもしれないが、それだって分からない。しかし、知美には自分が刺される理由などないと思った。

(通り魔? でもそれだったら、もっと早くに襲ってくるはず。ただの痴漢かしら。それとも露出魔? いや、別にそういうわけでもないみたい。飛びかかってきたわけでもないし、露出してもいない。じゃあ、何で?)それにいったい男がどこからつけてきたのかすら分からなかった。コンビニでチラッと見た男だったのか、あるいは電車を降りたときからつけられていたのか※7

どう考えても男の行動の理由など分からなかった。ただ、遠回りをした自分の後ろにまた出現したという事実だけがあった。恐さに知美は我慢ができなくなった。走って自宅に逃げ込みたいという気持ちもつのった。それでも、(こんな夜道で女をつけ回すなんて、おかしいし、卑怯だわ)と、許せない気持ちのほうが勝った。もう一度振り返って、まだそばにいたら、ひとこと言ってやろうと思った。

防犯ブザーでも持っていたら、ちょっと鳴らして男の様子でも見るのだが、ずっと以前に買ったものの、自宅のどこか引き出しにでも入れたままになっている※8。電池だってとっくに切れているだろう。何より、たった今、夜道で恐い目に遭っているのに手元にないのではまったく意味がない。自分に腹立たしさも覚えた。

次の街灯を超えたところで思い切って振り返った。わずか1メートルも離れていない場所にやはりいた男も足を止めた。「あの、何かご用なんですか?」と声をかけた※9。すると男は、手を顔に持ってゆき、頬から口を隠すようにして、「いや、別に。何も…」とはっきりしない声で答えた。「さっきから私の後をつけるような真似はやめてください!」


→自宅までつけられた! p.2
→→注意点解説/あなたの一票/関連ガイド記事 p.3
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