※この記事は、実際に起きた事件をヒントにした創作です。【全3回】
携帯電話紛失!拾った相手が悪かった(上)を先にご覧ください。
<前回までのあらすじ>
友人の中川の携帯を拾ったという男から、最後の通話相手の伊藤は、夜の繁華街の駅前に呼び出された。携帯電話を取り戻すため一人で応じることにしたが…
拾った連中と会う
女性のいる店で |
伊藤は元々ちょっとばかり、いやかなり、ヤンチャな男だった。今はカタギとして、手に職を持っている。真っ当な生き方をしているのだ。中学の同級生で、今は小学校教師をやっている妻がいる。妊娠中で翌月には子どもが生まれる予定だ。もちろん、伊藤のヤンチャな過去も知っている。が、結婚してからは、一切ヤンチャはやっていない。いい年をした大人だという自覚があるのだ。だからこそ、こんなやり方は納得がいかなかった。
(ちぇっ、喫茶店ってわけじゃねーだろうな。どうすんだよ、いったい)
と一人で舌打ちをして、携帯電話を取り出した。中川の携帯電話にかける。
「あ、もしもし」
携帯電話の向こうからは女性の嬌声や音楽が飛び込んできた。そして怒鳴るような大きな声が聞こえた。
「おーう、待ってました! 今、どこです?」
「駅前に来ましたけど」
「そうすか。そしたら左側に1階がパチンコ屋のビルがあるでしょ。分かります?」
「ああ、分かります」
「そのビルの2階にいるんだけどさ。看板が出てるよ。『キャンディ』っての。見えます?」
「あ、見えます」
「そん中で待ってるから。じゃ、頼んます」
一方的に電話が切れた。『キャンディ』の派手な看板の下に行くと、そこが女性のいる店だと分かった。すでに酒を飲んでいるのだろう。ヤツらは何人いるのだろうか。黙って携帯電話を返してくれて、話がスムーズにまとまればいいのだが…。首を左右にカキカキっと音を立てて振ってから、気合を入れて階段を上がっていった。革張りのドアを開けると、音楽が耳を突いた。店内を見渡すと、若い男が3人、数人の女性に囲まれて座っていた。
「いらっしゃいませ~」
男たちが全員、自分のほうを見た。真ん中に座った男が、伊藤に手招きをした。どう見ても、みなカタギではない風体だ。
「こっち、こっち。伊藤さんでしょ? どうぞ、座って。彼女たち、ちょっとどいてくれる」
女性が2~3人席を立った。一番偉そうにしているリーダーらしい男が、自分の向かいの座席を指差して、伊藤に座るように促した。
「伊藤さん。悪いね。よかったよ。来てくれて」
「どうも。お手数をおかけしました。オレの友だちの携帯を拾ってくれたそうで、お礼を言います。ありがとうございます」
→礼を言っても p.2→→要求されたもの p.3