防犯/防犯小説

愛の罪と罰 愛と故意のラビリンス?第6回(4ページ目)

【最終回】別れを告げた謙一はついに逸美からの着信を拒否した。それに対して逸美が取った行動は、謙一や世間の常識を越えるものだった。それは明らかに罪であり、許されざることだった。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

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迷宮に閉ざされる

迷宮に閉ざされる<br>Copyright(c)Illustrated by Yukiko Saeki
迷宮に閉ざされる
Copyright(c)Illustrated by Yukiko Saeki
最終的には、もっともひどいやり方で別離した。本当のことを言わず自分勝手に関係を続けて、終わらせようとした。逸美には何も分からず、突然、目の前でドアを閉ざされたようなものだ。だが、逸美の結婚への熱意と執着に対して、どう対応したらいいのか分からないという謙一の成長していない部分、現実に直面できずにひたすら逃げることを選択した情けない点を責めることもどうか。

現実と相手に真剣に立ち向かわないでいては、成長することはできない。しかし、謙一には立ち向かう力も誠意もなかった。人間として成長していなかった。成長する場面がそれまでなかったのだ。責任を取りたくないまま、これまでは相手の女たちの“あきらめ”という寛大さ、あるいは失望に救われてきたのだ。

逸美は結婚を意識するあまり、目の前の相手の条件ばかりを見ていた。謙一を愛していると思いこんでいたが、まず条件を愛していたのではないか。謙一の個性や人間性よりも条件から入って、型どおりに自分の結婚を実現させようとしていた。逸美も無意識のうちに謙一をバカにしていたということになる。

そして会話が徹底的に不足していた。互いを理解する努力を二人とも怠っていた。そんな二人はそれぞれ恥ずかしい痛い思いをする結果になった。謙一は半年間つき合った女性を刑事罰へと追いやり、逸美は結婚したかった相手を社会的に破滅させたのである。

謙一の会社がそれまでに会社が受けた電話の回数を記録して、逸美から送られたファクスの束を揃え、業務に支障をきたしていることについて被害届を出したため、逸美は『偽計業務妨害』の容疑で逮捕された。だが、逮捕当時、逸美は容疑を認めようとしなかった。

黙秘を続ける逸美は、捜査官に対して何も話すつもりはなかった。逸美が話したい相手は謙一だけだった。理由をちゃんと話して欲しい。話せば分かるはず。そうして謙一が逸美の愛情を理解して、元の関係に戻ることだけを考えていた。もし自分が罪を犯したというのなら、それは謙一への愛ゆえなのだから許されるはず、と思いこんでいた。

謙一の表面的な言葉は逸美を迷宮に閉じこめた。言葉にすがる逸美は、故意による不法行為でしか謙一に思いを伝えることができない状態になっていたのだ。しかし、これも冷静に考えれば、そうすればするほど相手は逃げるものだし、修復不能になることくらい分かるはずだ。破滅を招いたのは、冷静にも、客観的にもなれなかったからだが、果たして誰もがそう冷静になれるかどうかは分からない。

優柔不断で責任から逃れようとした謙一もまた、逸美と同様に迷宮から抜け出せなくなった。迷宮の中で二人は背中を向けたまま、手探りを続けていた。向かい合って話をすれば、別れという結果になろうとも出口は見つかり、それぞれに新しい出会いに向かって進むことができたに違いない。

男と女は五分と五分。努力しない関係に未来はない。努力しないくらいなら初めからつき合わない方がいい。だが、やはり男と女は求めあう。結果など誰にも予測できないし、また予測できたら面白くもない。どんな結果になるか分からないからこそ男も女も、愛という名の迷宮に足を踏み入れて行くのではないだろうか……。

法律ワンポイントチェック

刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法第234条(威力業務妨害)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。


・愛と故意のラビリンス~第1回
・愛と故意のラビリンス~第2回
・愛と故意のラビリンス~第3回
・愛と故意のラビリンス~第4回
・愛と故意のラビリンス~第5回
・愛と故意のラビリンス~第6回

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