防犯/防犯小説

愛の罪と罰 愛と故意のラビリンス?第6回(3ページ目)

【最終回】別れを告げた謙一はついに逸美からの着信を拒否した。それに対して逸美が取った行動は、謙一や世間の常識を越えるものだった。それは明らかに罪であり、許されざることだった。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

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罪はどちらに?

なぜこんなことに?
なぜこんなことに?
分かっていてもやってしまっていた。それが法律に触れることになるかもしれないと分かっていても、不思議に罪悪感はなかった。(だって謙一さんがいけないのだから)と、自分に言い訳をしていた。(私がこうするのは謙一さんがあんな風に去っていったから。私の将来をなくしたから。でも、戻ってきてくれたら私は彼を許してあげるのに)

逸美は自分が思い描いた将来が手に入らず、寂しい日々を送っていることは謙一のせいだと思っていた。自分には思い当たるような理由はなかったし、謙一も言わなかった。自分のどこが、何が悪いのか分からないまま、謙一との過去と将来の夢にだけすがっていた。

謙一の言葉は逸美を傷つけまいとしてのことだとしても本当のことを言わず、かえって逸美に余計な期待を抱かせていた。もとより、様々な趣味の違いや感覚が合わないことを隠して、逸美の好意にいい気になっていた謙一のずるさに問題があったのではないだろうか。

結婚の意思がないことを分かってからも、結婚を目的としている逸美とつき合うことは間違っていた。もっと早く軌道修正をすべきだったのに、快楽に流されて後先のことを考えないでいたのだ。逸美の気持ちを知ろうとせず、“女”の部分だけをむさぼっていた。分かっていながら、表面的にはうまく行っているように見せかけていた。

もちろん、逸美も謙一の本心を知ろうとせず、条件にだけこだわり、自分の将来のことだけを考えていた。つまり、二人ともつき合い方が間違っていたのだ。それでも体の結びつきは女の心に変化をもたらす。体と心の境界線が男よりもあいまいな場合が多く、むしろ同一の物だと思いこんでしまうことがある。

体が寄り添っていても心が離れていることに気がつかない、あるいは肉体の欲望を心の情熱と勘違いして思いこんでしまう。そうして、思わぬ方向に関係が発展していったり、自分自身の本当の気持ちすら見えなくなる。

だが、やはり逸美との関係においては謙一が正直ではなかったこと、誠実ではなかったことは言えるだろう。逸美と合わないことを悟りながら、自分が我慢すればいいといういいカッコしい、自分が我慢してあげているのだという、思い上がり、驕りがあった。結局、無意識のうちに謙一は逸美をバカにしていたといえる。

(どうせ一時的なつき合いで、いずれ簡単に別れられる)と甘く考えていた。だが、そのように人の気持ちをもてあそぶことは必ずしっぺ返しが来るはずだ。結果を自分で決めようと故意に本心を隠していた。別れの場に及んでも、口先だけのお愛想の言葉を繰り返していては、逸美が納得するわけもない。

→・迷宮に閉ざされる……p.4
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