今回はAll About編集部に寄せられたエピソードの中から、「お辞儀ハンコ」のもやもやを紹介しながら、All About ビジネスマナー ガイドの美月あきこが解説します。
お辞儀ハンコ、本当に必要?
All About編集部が実施した「ビジネスマナーに関するアンケート」では、組織内の地位が低い人ほど上司の印影より傾斜させて押印する、いわゆる「お辞儀ハンコ」についてもやもやが多く寄せられました。「上司に書類を回す際で押印のいるものは印鑑を左斜めに押しお辞儀しているように見せなくてはいけないと先輩に言われた」(40代男性/福岡県)
「上司の印影より角度をつけて斜めに傾けて押印していくお辞儀ハンコ。5つぐらい並ぶとほぼ水平になる」(50代男性/岡山県)
「承認書など上司の印鑑と並ぶ時にお辞儀させているように見えるように斜めに押すことです。本当にそんなことで敬意を表すことになっているのか疑問です」(30代女性/東京都)
「上司と一列に捺印するとき、お辞儀をするように傾けて押す文化。書類に押すハンコは上下をしっかり合わせて綺麗に押してある方が見た目がいいと思う」(20代女性/東京都)
「印鑑を押す際に傾けて押すこと。おじぎハンコ。こんなこと誰が気にしているのか?と本当に疑問に思う。書類上のハンコにまでも敬意を払うなどという行為は過剰すぎる」(30代女性/熊本県)
あくまで「職場特有の文化」に過ぎないけれど
印鑑は本来、真っすぐ丁寧に押すのが基本とされていますが、一部の職場では「お辞儀ハンコ」と呼ばれる慣習が今も残っています。これは、上司の印影に対して自分の印鑑を左斜めに傾けて押し、まるでお辞儀をしているように見せるというものです。このような慣習は、金融機関、官公庁、大手メーカーなど、いわゆる「お堅い」業界に多く見られます。服装や言葉遣い、書類作成の細部にまで秩序や礼儀が求められるため、印影1つにも敬意を表す意味が込められているようです。実際、某メガバンクでは「お辞儀が足りない」として押し直しを指導された、という記事が報じられていました。
とはいえ、「お辞儀ハンコ」は法律やビジネスマナーにおける絶対的なルールではなく、あくまで「職場特有の文化」に過ぎません。意味を感じなければやめてもよいものですが、慣習を重んじる現場では、やらないことで「協調性がない」と見なされる可能性もあるため、自分流を貫くことが最善とは限りません。
大切なのは、その背景や相手の価値観を理解した上で、自分なりに判断することです。たとえ形式的であっても、相手にとって大切な意味があるなら、一度受け入れる姿勢もマナーです。
コロナ禍を経て印鑑文化そのものが見直される中、「お辞儀ハンコ」もやがて姿を消すかもしれません。ただ、「形式の中にある気持ち」に目を向ける姿勢は、これまで同様にこれからもビジネスに求められる視点ではないでしょうか。
<調査概要>
ビジネスマナーに関するアンケート
調査方法:インターネットアンケート
調査日:2025年5月12日
調査対象:全国20~60代の250人(男性:90人、女性:158人、その他:1人、回答しない:1人)
※回答者のコメントは原文のまま記載しています