2023年話題の不祥事企業に共通する「同族経営」、本質的な問題点とは?
そもそも同族経営とは何か
「同族経営」とは、最も基本的な会社経営のあり方で、創業者やその親族によって運営されている会社です。「ファミリービジネス」や「オーナー系企業」「家族経営」と呼ばれることもあります。同族経営の会社は、「同族会社」であることが一般的です。同族会社とは、会社の株式や出資金の過半数を少数の株主によって所有されている会社です。会社をスタートさせるときは最初に資本金を会社に拠出します。資本金は株式という形で集めますが、通常は創業者が資本金の全額を出資するので、創業者が株式の100%を所有するオーナーとなります。その後、創業者の死亡などで株式が同族に相続・譲渡されることで、同族会社の基本形が成立します。同族会社は日本企業の8割を超えています。
同族経営は、同族の財産(資本)を同族経営者が運用(経営)して、その利益を同族が受け取るというシンプルな経営です。ただし、会社規模が大きくなり、同族の財産(資本)だけでは投資が賄えなくなった場合は、増資という形で同族以外からも出資を募り、最終的には株式を公開(上場)して広く出資を募ることになります。株式を公開して多くの投資家から資本金を集めると、同族の出資比率(株保有率)はそれだけ下がります。つまり同族企業ではなくなります。
トヨタは、豊田家一族の株保有率が1%を切っているといわれているので、同族企業ではありませんが、世襲的に経営者を輩出している「同族経営の会社」です(現在の佐藤恒治社長は同族ではないが、会長は豊田章男氏)。
同族経営のメリット・デメリット――ユニクロ・星野リゾートは同族経営の成功例
中小企業であれ、トヨタのような大企業であれ、同族経営であれば経営者の在籍期間が長くなるので、長期的な視点に立って経営を行うことができます。会社の方針や戦略にも大きなブレは生じないので、社員や取引先も安心できます。また次期後継者も自覚的に育つので事業承継もスムーズに行われます。また同族経営では資本の提供者(株主)と実際に経営を行う者(経営者)が一致している(資本と経営の一致という)ので、意思決定が迅速に行え、経営者は強いリーダーシップを発揮できます。ユニクロや星野リゾートなどは、同族経営のメリットを遺憾なく発揮できています。
一方、同族経営では、経営者に過度に権限が集中してしまうデメリットがあります。社員も経営者の顔色をうかがいながら忖度して発言するので、経営者にとって耳が痛い情報は届きにくくなります。現場と経営者との間に知らないうちに情報ギャップが生じ、経営者は「裸の王様」となります。そうなると経営者は組織の問題を認識できず、誤った経営判断を行うリスクが高まります。ビッグモーターはその典型例です。
同族経営者のおごりが違法行為を招く
さらに「社員は自分の手足となって働くもの」「社員は自分が食わせてやっている」という経営者の慢心・おごり意識が強まると、「会社のお金は自分のもの」「社員は何でも言うことを聞く召使い」「自分は何をしても許される」と社会的に容認できない間違った考え方を持つようになります。ジャニー喜多川氏は、芸能界で強大な実権を持っていたため、そのおごった意識がさらに肥大化していったものと思われます。一方、経営者としての責任意識を持たないで育った2世、3世にも、おごった意識を持つものが出ます。社員にパワハラをしていたビッグモーターの前副社長や、パパ活女性に「あなたの裸に興味がなくなった」として盗撮を依頼した山田養蜂場元専務などがその例です。
同族経営が悪いのではなく、「ガバナンス不全」が原因
同族経営は迅速な意思決定などメリットが多い半面、経営者への過度な権力の集中や経営者の慢心やおごりが生じやすい面もあります。しかしそういったマイナス面は、同族経営の会社以外でも起きます。たとえば、不正を疑いつつもビッグモーターとの取引を再開させた損保ジャパンの経営者です。引責辞任はしましたが、その独走を許した損保ジャパンのガバナンス(公正な企業運営を図るための監視・統制の仕組み)不全はニュースでも大きく取り扱われています。
ガバナンスとは経営者や組織が暴走しないための仕組みで、たとえば社外取締役など外部の第三者が経営を監視(モニタリング)する仕組みの導入、社内不正を把握するための内部通報窓口の設置などがあります。
ビッグモーターやジャニーズ事務所もそうですが、同族経営の会社は株式を公開していないことが多く、第三者による経営監視などのガバナンスが不十分になりがちです。同族経営の会社が社会に認められ、「社会の公器」と呼ばれるためには、何よりもガバナンスの強化を図ることが不可欠です。