筆者が経営する「原価BAR」ももちろんもろに影響を受けました。2020年初めは、クローズした原価BAR赤坂見附店の移転先を探していたところだったのですが、あっという間にそれどころではなくなり最初の緊急事態宣言が発出されました。そして、客足が大幅に減少したのです。
このあたりから移転どころではなく、生き残るために必死でした。新型コロナウイルスのことはいろいろと調べていたので、東京都の施策に思うところもありますが、素人考えで反発して事故を起こしたら目も当てられません。もちろん、要請に従うことにしました。未知のウイルスなので恐怖もあり、全面的に休業したのです。
休業していても経費は飛んでいくので、その間、従業員にさまざまな授業を行いました。筆者はIT・ビジネスライターでもあるので、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)を中心としたスキルを解説しました。飲食店は昔から超アナログな業態の上、小規模だとITシステムの導入効果が得にくいのです。そのため、ITに詳しい筆者が経営しているのに、あまりDX化が進んでいなかったのです。
「原価BAR」ホームページ
休業中に発見した思わぬ収穫、実感したこと
日々遅くまで働いていると、そこから勉強するには無理があります。しかし、コロナで休業中だったことで、YouTubeによる動画配信やネット販売、SNS運用、コミュニケーションツール「Slack(スラック)」、業務システム「kintone(キントーン)」といったITのことを従業員が喜んで学習してくれたのは思わぬ収穫でした。GW明けに緊急事態宣言が解除されることになりましたが、この時に苦労したのが、アルコール消毒液とマスクの確保です。買い占めが起きて、随分苦労しました。普段、お酒やフードを扱っている取引業者さんが急遽仕入れてくれたものをかき集めるように買って、なんとか切り抜けました。日頃からさまざまな企業と良好な関係を保っておくと、いざというときに助けてもらえるんだな、と実感しました。
消毒液やマスク、トイレットペーパーの買い占めには困りました
また、助成金や補助金などもお付き合いのある複数の税理士さんのお力を借りて、可能な限り申し込みました。10年前に原価BARを創業したときにはこのような知識がなく、全部銀行から借りてまかなったのですが、数年後に使える助成金がいくつもあったことに気がついて次のチャンスがあればきちんと活用しようと考えていたためです。
さらに、キャッシュを手元に用意しておいた方がよいと考え、融資を受けました。コロナ禍でのプランをしっかりと説明し、ある程度まとまった金額の融資を受けられました。
統合移転を決断
2020年秋になり、そのうち新型コロナウイルスの第2波が来るだろうと言われ始め、今後の経営判断を下さなければ動けなくなると考えました。当時、原価BAR五反田店は好調でしたが、原価BAR銀座店は大赤字でした。銀座から人がいなくなってしまったからです。そこで、赤坂見附店の移転も含め、全店を統合移転することにしました。最初は五反田で探したのですが、五反田全体は比較的活況だったこともあり、あまり好条件の物件が出ていませんでした。そこで手を広げて探したところ、三田駅・田町駅の近くに大型の居抜き物件が出ていたのです。五反田店と銀座店の席数を合わせたよりも大きい一戸建ての物件でした。
新型コロナウイルスは必ず一段落します。世界の様相は変化し、元には戻らないかもしれませんが、人々が飲みに出る日は遠くないと信じました。その際の需要はとても大きくなると思いますが、そんな時に小さい物件だと売上の上限が決まってしまいます。大家さんもとても話の分かる方で、契約することにしました。2020年のことなので、周りには「今?」と驚かれました。
浅草線三田駅の乗降人数は1日に11万1000人で、JR田町駅はなんと15万8000人もいます。1km圏内には数万人が住んでいます。原価BAR五反田や銀座に来ていただいたこれまでのお客さまもいます。この中から、1日100人だけでも「原価BARに行こうかな」と思えるお店を作ればやっていけます。そんな思いで、1月にオープンする予定でした。
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